新渡戸文化学園、すごい!
先日、新渡戸文化学園小学校の図工教諭、山内佑輔先生にお会いしてきました。
北海道出身で、青森県のミュージアムに長く勤務していた僕としては、新渡戸稲造さんのお名前は常に近いところにあって [i]、そんなお名前が冠されたこちらの学校はとても強く印象に残っていたんです。
そんな折に、日頃からとっても仲良くさせていただいている山内先生が、その新渡戸文化学園に移られて、なにやらとってもおもしろいことを実践されているときき、ようやく訪問させていただきました。
新渡戸学園には「VIVISTOP NITOBE[ii] 」という、普通の学校にはない特殊な場があり、レーザーカッターをはじめとしたデジタルファブリケーション(FAB[iii] )機材が充実している、とは聞いていました。僕もこれまではレーザーカッターや3Dプリンターを使って子どもたちと遊ぶ職場におりましたので、今回もそれで遊べるのかな?と行く前からドキワクしていたわけです。
入口から引力がビンビンに...早く入りたい!
なにができるんだろう、中ではなにが行われているんだろう、
そんな好奇心を刺激する「心地よい、知りたくなるわからなさ」がたくさん生まれていそうな入口。
そこから入ってすぐのところは、事前情報通りのレーザーカッター、プログラミングしそうな機材(KOOVじゃなかった...泣)、PCなど、FAB関連機材が、いつでも触っていいよという雰囲気とともに綺麗すぎずに(褒め言葉です)たくさん置かれています。
ここでは外部の企業の大人たちが様々な打ち合わせもするらしく、子どもたちがPC画面を覗きこみながら「なにしてるの?」という交流もあるとのこと。
ちょっと奥にいくと、みなれた図工室によくあるものたちが置いてあります。
中央には近所の材木加工の会社からもらってきた端材がプールになってました。
一番奥は、なにもないギャラリースペースのような場所です。
何気なくラックにかかってたのは、本当は訪問当日に行われるはずだった運動会のための、チームTシャツでした。
「せっかくなら自分たちでシルクスクリーンで作りたい!」ということで、子どもたち自身が制作したとか。
他にも、「卒アルの写真って、そのときだけ来るおじさんが撮るよりも、自分たち同士で撮りあって作った方が楽しいし思い出になるんじゃないかな?」ということで、カメラマンさんに写真の撮り方を教わって、自分たちで作っちゃう計画もあるんですって。
「職業」とか「働く」ことが大人の専売特許ではなくなってきてる今、もしかしてこの子たちが小学生のうちに木村伊兵衛賞とかとっちゃったりして、なんて考えてしまいました。
肌感覚に寄り添った「問い」に対し真摯な「場」
ここまでご紹介いただいたあたりで僕は、
「ああ、山内先生は『問い』を提示することをとても大切にされているんだな」
ということを感じました。
その「問い」とは、「意識していないと『当たり前』として見過ごしてしまう場所」にある「子どもたちのごくごく身近な問題」であるように感じます。
このVIVISTOP NITOBEは、そんな山内先生の意図に呼応するように、子どもたちの肌感覚に密接した問いへの「自発的に解決しようとする意思」に、とても素直に場がデザインされているように思えます。
「今日は〇〇をつくりますよー」
から何かを始めるだけではなく、
「ちょっとまてよ、卒アル、おじさんが撮るのが普通だと思ってたけど、自分たちで作った方がいいものつくれんじゃない?」
に気づかせる問い。
そう思ったら、
「これを駆使すればいいんじゃないかな?」「この人に教えてもらえばいいんじゃないかな?」
を、子どもたち自身が自然と思いつくことができる環境。
このことは、すべからく子どもたちにとって楽しいに違いない。
VIVISTOP NITOBEを、単にFAB機材が充実した図工室なのかな?と思ってしまっていた自分をとても恥じたし、
VUCAやSTEAMという背景がある中で、そのひとつの解として、子どもたち自身の「本当に素直なワクワク」をいかに引き出すか、その環境を、私学ならではの条件も存分に活かしながら実現しているのがここなんだな、と思いました。
「自由闊達にして愉快なる場」としての図工室
ところで前回予告したソニーの設立趣旨である「自由闊達にして愉快なる理想工場」という言葉には、「クリエイティブには自由で愉快であることが必要だ」という思いが込められているんです。
これからの社会で生きる子どもたちがクリエイティビティを発揮できるような「今求められている教育」には、たとえばそんなソニーの設立趣旨に則れば、教育には「自由闊達にして愉快なる場」が必要であると言えます。
今回お伺いしたVIVISTOP NITOBEにも通ずるものかもしれませんが、「自由闊達で愉快なる場」での気づきや学びを、実生活に生かして考えるには、「現代的な価値観やリズム感」もとても重要になってきます。
絵の具や粘土はもちろんのこと、それと同列で、レーザーカッターや写真、プログラミングを「表現の手段」として扱うことは、テクノロジーを使うとさらに可能な表現が増えるという意味で、子どもたちにとっては次の「もっとこうできるかもしれない!」という視点に大きく影響を与えることでしょう。
ただし、機材があっても、子どもたちが何かをしたいと思った時に自由に使えないと意味がないし、機材が使えたとしても、図工室で先生の言うとおりにやっているだけだと「自由闊達にして愉快なる場」にはならないかもしれません。
「自由闊達にして愉快なる図工室」は、機材だけが充実していることを指すのでは決してなく、指導者自身が、当たり前を疑うことができるフレキシブルな視点によって、空間や人、モノ、コト、余白など、子どもたちをとりまくあらゆる要素を捉えて構成していくことがポイントなんだな、と、VIVISTOP NITOBEに伺って改めて思ったのでした。
余談ですが、訪問中、山内先生は頭の先からつま先まで「今僕はとっても楽しいよ!!」という雰囲気を放っていて、近寄って行かずにはいられない感じでした。
子どもたちは本当にそういうものに敏感ですし、VIVISTOP NITOBEを素敵にさせている最大の要因は、山内先生から放たれる強烈な「楽しいオーラ」なんだな、とも感じたのでした。
[i]青森県十和田市には新渡戸記念館という博物館施設がある。http://www.nitobe.jp/
[ii]VIVISTOP NITOBE https://www.nitobebunka.ac.jp/vivistop/
[iii]デジタルファブリケーション
デジタルのデータを用いてものづくりする技術のこと。レーザーカッターや3Dプリンター、3Dスキャナーなどが有名。
複数の美術館や科学館で、
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