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Phase004:プログラミングの図工・美術的な「おもしろさ」

これまで、子どもたちは図工や美術の授業で、絵の具や粘土を自由自在に駆使する授業を経験してきました。

でもたとえば、「動き」そのものを表現のために多様に駆使できる環境はこれまであったでしょうか?

今までなかった視点でものづくりに向き合える。

そこに、図工・美術×プログラミングの特有のおもしろさのヒントがあるように思います。

 

「課題発見力」の重要性が叫ばれる現在、いつもは何気なく見過ごしてしまっている身の回りのことに気づく視点は、今後ますます重要になっていくことでしょう。

その時に、「新しい表現方法(output)」の体験をきっかけにして、「新しい切り口でよくみる視点(input)」が獲得できることは、これからを生き抜くためにとても有効な学習体験といえます。

 

例えば運動会の絵をかいてみると、

「あれっ?玉入れの網の色って何色だったかな?」

と気づきます。

 

例えば走っている友達を粘土でつくってみると、

「あれっ?足の長さがへんだな…どこがへんなんだろう?」

と気づきます。

 

それと同様に、表現にプログラミングで「動き」そのものを得た時、子どもたちは何に気づくのでしょうか。

 

 

ここでひとつ事例を。

図工ではなく中学校の美術と特別活動のコラボレーションの授業ですが、上記の意味でとても興味深いものです。

 

青森県青森市立東中学校の美術教諭、高安弘大 先生とご一緒させていただいた実践です。

 

「青森ねぶた祭2020をプログラミングせよ」

 

2020年、コロナ禍において、青森県民のシビックプライドそのもの、と言っても過言ではない(?!)「青森ねぶた祭」が史上初めて中止となりました。そして続けて今年、2021年もねぶた祭は中止となってしまいました。

 

そこで東中学校では、「ねぶた祭が中止なら、自分たちでつくってしまおう!」ということで、弊社のKOOVを使って「ねぶたをつくる」という授業を行いました。

ただ今回は、実際にねぶたをつくっているねぶた師の方との交流によって、ねぶたへの思いや作品の意図を知ることも大切にしたため,ねぶたの制作はねぶた師の方に依頼し、生徒たちは動きを司る台車部分を、KOOVを使ってつくることにしたそうです。

 

 

美術・特別活動「青森ねぶた祭2020〜ねぶたをプログラミングせよ〜」

 

取り組みの概要

新型コロナウイルスの流行を受けて中止となってしまった「青森ねぶた祭」を、プロのねぶた師・工藤さんの協力を得ながら、KOOVでつくりあげる。

 

ねらい

・身のまわりの問題点から、表現のきっかけをつかみ、試行錯誤しながら思考を深めていく一連の流れの面白さに触れる。

・持続可能な社会の実現に向けて、地域や地域資源、地域の人々との交流を通して、地域社会への参画の意識を育む。

 

 

授業の流れ 

●導入(1)KOOVってなに 

 ・ KOOVに触れてみて、KOOVの動かし方や特徴を知る。 


●導入(2)身の回りの問題点を解決しよう 

・自分たちの身の回りの課題として「新型コロナの流行で中止となってしまった青森ねぶた祭を、KOOVで再現できないか」 を設定。

 

●展開(3)青森ねぶたの動きを研究 

・動画や記憶を頼りに、ねぶたの動きに必要なプログラムを、KOOVを動かしながら考える 。

  

●展開(4)KOOVで基本となる形「動く車」をつくってみる 

 ・基本形の車をつくり、動きを研究する 。


●展開(5)ねぶた師工藤さんと話をしてみる〜ねぶた制作を依頼〜 

 ・土台に上げるねぶたを25×25cmの大きさでつくっていただくよう、プロのねぶた師さんに依頼 。


●展開(6〜7)完成したねぶたを鑑賞し、KOOVにのせて動かす 

・完成したねぶたを鑑賞、工藤さんがどういう思いでつくったのか、考える。 

・モチーフ「鍾馗(しょうき)」鬼(疫病)と戦う鍾馗を表現している 。

・背面(送り絵)にアマビエが表現されている →ねぶた祭が中止になり、世界の現状を踏まえた、人々の思いについて考える 。

 

・実際にKOOVにのせて動かしてみる。→イメージに相応しい動きを試行錯誤 。


●終末(8)文化祭で発表・展示 

・地域の人や、保護者にみてもらい、交流・意見交換 。

 

・地域の今を知る。


普段と「みる切り口」を変える体験、世界が変わる

 

生徒たちは、毎年ねぶた祭をみたり、参加したりしていて、ねぶたは「とても身近にある当たり前のもの」です。

しかし、今回の授業のように、ねぶたを「作品」として時間をかけて鑑賞し、作者の思いや意図を慮る機会は、当たり前であるが故に意外とないもの。

つくっていただいたねぶたをグループでじっくりと鑑賞し、得られたイメージを伝えるためにプログラミングという「動き」で表現する。

ここに、「何度もトライアンドエラーできやすい性質のプログラミング」を用いた、主体的で対話的な学びが発生しています。

 

また、KOOVでねぶたの土台をつくり、自分で動きを与えることによって、

なんかねぶたの動きに微妙に似てないなあ、どこが違うのかなあ

よくよく考えたらねぶたの動きのディティールってどうなってたかなあ

 という気づきも得られてきたようです。

 

この「あれ?ちょっとまてよ?」という気づきもとっても大切。

実は身の回りに潜んでいて見逃されることの多い「発想のタネ」を多く見つける訓練につながり、ひいては「自ら視点の切り口を変えてみることができる」ことにつながるのではないでしょうか。

 

プログラミングによって「動き」を自分でつくってみたからこそ、自分の作品の細部に目がいき、それがきっかけとなって、身の回りをみる新たな視点が生成された、と言えるかもしれません。

 

 

モノとの対話、動きとの対話

 

さらには、こんなこともあったようです。

 

KOOVのタイヤはゴム製で、ななめに挙動したいときも摩擦で横滑りせず、タイヤそのものが外れてしまう、ということがあったそうです。

タイヤが滑りやすくなるようにいろいろ考えていたときに、ある生徒が

「あれ?でもこのタイヤが取れてガタンって落ちる動き、ねぶたの動きにすごいそっくりじゃない?」

ということに気づいたそう。

事前に動きを想像し、その通りにプログラムを書き、想像通りに挙動するかどうかを試行錯誤することが仮に「プログラミング教育的」と考えるのであれば、この、「そうなってしまった結果の良さをとらえ、利用する」という視点は、「受け入れて反応する力を伸ばす」ことにつながり、ここは極めて「美術的プログラミング教育的」と言えるかもしれませんね。

 

 

いつの時代も、図工美術という教科は、「子どもたちが豊かに成長する」ために、学校という社会装置のなかで「自由」「自分」という言葉をテーマにバランスをとる役目を果たしてきたと思います。

多様に状況が変化する現代においても、僕はその役割はまったく変化しておらず、むしろ重要度を増していると考えます。

プログラミング教育というものがもたらしてくれるものについて理解し、受け入れながら、「子どもたちが豊かに成長する」ために美術的に呼応できる題材をつくること。

こんなことを先生方と一緒に実践し続けられたら素敵だなあと、思っています。

 

 

 

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Author:清水輝大(しみずてるひろ)
ソニー・グローバルエデュケーション エデュケーションエヴァンジェリスト。
複数の美術館や科学館で、学芸員として地域や学校と連携したミュージアム教育のあり方を実践研究、各自治体における教育・文化政策の提言などののち、現職。
造形教育の視点から、主体的に「よくみて」「学び」「発想する」姿勢を育むプログラミングなどを使った教材の研究開発、
教育イベント企画、教育シンポジウム・研究会・学会講演等。
武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所客員研究員。