皆様は、ソニーグループの一つに、(株)ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下CSL)[i] があるのをご存知ですか?
「天才・異才が飛び出すソニーの不思議な研究所」でも紹介されたこの研究所は、東京・パリ・京都に拠点があり、「誰もやっていないOnly oneな研究」を展開するCSLに所属するリサーチャー(研究員)の研究領域は、人工知能/人工生命/身体/音楽/農業/保育など、本当に多岐に渡ります。
そんなCSLと共同で、先日、オンライン子どもワークショップを開催しました。
先に言っておきます、このワークショップ、プログラミングしてません。
CSLリサーチャーの視点を借りながら、ひたすら3週間に渡って考え続けるワークショップです。
プログラミングやその他の素材や手法を用いる前、表現する前段階の思考体験をテーマに据えた企画です。
今回から複数回に渡って、本企画を例にとり、オンライン授業の学びの効果や影響について考えてみたいと思っています。
嫌なことの代表格:掃除をアソビ化する
まずは、とてもざっくりと内容を紹介します。
「Kids “Power” Project Vol.2 掃除をアソビ化する」[ⅱ]
ゲストティーチャー:アレクシー・アンドレ(CSLリサーチャー)[ⅲ]
ファシリテーター:清水 輝大(わたしでございます)、柏 康二郎(CSLサイトアクティベーションプロジェクトリーダー)
参加:小学校3〜6年生くらいの親子10組
時間:3時間×3日(土曜日ごとに開催)
環境:Microsoft Teamsを用いたオンライン授業
プログラム
①みんなでMicrosoft Teamsの「画面そのもので遊べること(アソビ化)」を考えてみる
②実際にみんなで遊んでみて、「繰り返し遊びたくなるか」「そもそも面白いか」を考える
③アレクシー先生からアソビ化するコツを伝授
④とっても嫌なことの代表格:学校の掃除について考える
⑤掃除をアソビ化する
⑥発表
と、こんな感じ。
アソビ化するコツとしては、「あえて不自由になる要素(難易度)をデザインすること」や「競争性」、「自分がズルするとしたらどうするかを事前にたくさん考える」などのことがアットホームな雰囲気の中で伝えられていきました。
その後、学んだことを活かしながら、階段掃除やトイレ掃除などの「嫌なところ」と「求める結果」についてを、自分の体験と照らし合わせて思い出しながら、掃除アソビを開発しました。
嫌なことを、そのままイヤイヤやり続けるのではなく、楽しい行為とすることで効率をあげられないか、というようなワークショップです。
「先生」「生徒」ではない関係が生まれる
さてここからは、オンラインならではだったなあ、と感じたことをいくつかご紹介させていただきます。
今回のゲストティーチャーは、「ゲーム」「学び」「デザイン」「アート」「音楽」「エンタメ」「工学」「科学」……などなどなどなどなど.……を研究領域とされているアンドレ・アレクシーさん。
最近では「小さなキューブ型ロボットトイ toio」[ⅳ]をつくったり、ファッションブランド・ISSEY MIYAKEさんの最新テキスタイル技術とアレクシーさんが開発したの色パレット抽出技術 "Omoiiro"がコラボしたバッグ [ⅴ]を発表されてたりと、既存の学問領域を越境して活動している、実はとってもすごい人。
でもいざはじまってみると、今回はそんなソニーの研究者とすぐに、自然と仲良く交流ができる場になりました。
このことは、子どもと大人が同じ大きさのフレームで、平等に場に参加している意識が生まれやすい、ということが大きく作用していたように思います。
それどころか今回は、参加者各人のフレームの場所を固定しませんでしたから、参加者の子どもたち各々が、たとえば私やアレクシーさんを、右上で見ているのか、真ん中のフレームで見ているのか、あるいは勝手に別の子を拡大して見ているのかすらわからない状況で進行しました。
もっと言うと、子どもたちは気分次第で自分の顔を表示することも消すこともできるし、極端な話、いよいよ嫌になったら、PCを閉じてしまうだけでその場を退出もできてしまいます。
昨今では、主体的/対話的という文脈の中でも、それまでの壇上の講師と生徒という関係の「講座形式」に加えて、学び合いの相互関係性を演出する「ワークショップ形式」が注目されていますが、このオンラインの状況は、その系譜の延長線上に位置していると言えるかもしれません。
「講座形式」でも「ワークショップ形式」でも必ず存在する講師席やファシリテーターの立つ位置といった場所性、あるいは、それらの存在からどうしても感じてしまうヒエラルキーや権威にも似た何かは、このワークショップではあまり感じられなかったように思います。
つまり、自分のパソコンの画面上では極めてフラットな関係性を感じさせる世界の中で、子どもたちには、自分をどのように存在させるかという精神的な自由があるのです。
この場のバランスが子どもたちに与える影響は、小さくないように感じました(とはいうものの、いくら画面の中であっても、子どもたちからすると、「おしゃれで気さくでイケメンなロン毛のフランス人のおじさん」というアレクシーさんと仲良く話す時点で結構刺激的だったかも)。
また、参加者は北は東北から、南は九州からと全国各地から。
「今日、そっちは暑い?」とか、「このおにごっこ、そっちにもある?」とか。
子どもたち同士の交流によって、多様な価値観を感じながら進行しました。
「距離」を飛び越えた交流は、刺激的な他者理解のきっかけとなり、自然な「もっと知りたい!」を生んでいたように思います。
これらのことって、リアルの場で行われていた今までのワークショップや授業の常識と改めて比べると、結構すごいことですよね?
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複数の美術館や科学館で、
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