私たちソニーグループが実施したオンラインワークショップ「Kids “Power” Project Vol.2 掃除をアソビ化する(プレスリリース)」を例にとり、オンライン授業という学習環境による影響を考えていく第2回です。(第1回の記事はこちら)
視点の切り替えの訓練のために利用する
今回のワークショップでは、素材選びなどの場面で、身の回りのものを使う際、それが「何のためのものなのか」だけではなく、「どのように使うことができるか」と発展的に捉えることができるように意識した声かけを行いました。
この、「何のために作られたかはとりあえず置いといて、形や素材感について考えてみる」という行為は、あえて図工美術的に言うならば、身の回りのものを鑑賞している、ということになり、通常の図工美術の授業で行われていることだと思います。
身の回りのものを鑑賞すると、「今まで当たり前に見ていたもの」が「全く違う新しい目え方」になっておもしろい。オンラインでは、子どもたちにとってもっとも身近で、もっとも「いつも見ていて目新しさのない」自宅にあるものがその対象となります。
そして「いつも見ていて目新しさがない」からこそ、新しい見え方を見つけたとき、大きな落差を感じることができ、見え方の違いを実感できるのだと思います。
実際、ワークショップ中でソウジを楽しくするゲームを考え、それに使う道具を検討していた時に、子どもたちからは
「このペン、太さはいいんだけど、長さがちょっとなあ〜」
「じゃあ見て見て。うちにはこんなお箸があるけど、使えそうじゃない?」
という会話や、
「先週のワークショップ終わってからずっと探してたんだけど、昨日食べたこのアイスの蓋、使えそうなんだよね!」
という反応がありました。
ここでは、一本の細い棒状のものを探す行為でしかありませんが、子どもたちは、身近なものを別の見方でみるという方法をもっとも身近な場所で行いました。
繰り返しになりますが、自宅というもっとも見慣れた場所にあるものを対象としたオンラインワークショップだからこそ、その経験は子どもたちにより鮮烈な印象を残すのです。
そして、こうした「視点の切り替え」の訓練の積み重ねは、「課題発見力」つまり、当たり前と感じていることから課題を発見する能力を育むことに繋がってくのではないでしょうか。
「普段の生活」が、実践の場になる?
話は変わりますが、本ブログのメインテーマである「プログラミング教育」のいいところのひとつは、気軽にトライアンドエラーができること、というお話は以前させていただきました。
「これからの時代を生き抜くには、まずはやってみる!失敗する!検証してやり直す!という試行錯誤がスピーディーにできることが大事なんだー!」
という話は、様々なところで耳にするようにもなりましたね。
前回の記事でも書いた「オンラインによって『学ぶ場』と『普段の生活』の境界線がなくなること」によって、気軽なトライアンドエラーを実行することができます。
今回は学校の掃除がテーマでした。
自分たちが考えたことによって本当に綺麗になるのか、本当に楽しい掃除になっているのか、そもそも考えた企画は成立するのか、家族を巻き込んで家で試してみる、ということが多く見受けられました。
「お母さんにお風呂掃除しなさいって言われてたから、考えたことを試しに家のお風呂でやってみたんだよね……。あんまり面白くなかった……。」
「家にあるミニホワイトボードで試して見たら、あんまりうまくいかなかったんだけど、お父さんがいろいろ手伝ってくれたりアドバイスくれたりして、なんとかできました!」
といった報告が寄せられたのです。
私はこれまで、美術館などで実施したワークショップでも、子どもたちが考えたことやつくったものを「家の中で近い環境を探してとりあえず試してみよう」と、意識をして声かけしていましたが、なかなかうまくはいかなかったように思っています。
しかし今回は、多くの参加者がそれを何度も自発的に行い、お家の方にフィードバックまで求めていたようでした。
その大きな要因のひとつに、「オンラインによる自宅での学習」が「学びが途切れない環境」をつくり出すことに大きく寄与していたのではないかと推察しています。
私は、自宅が学びの場になることによって学びの記憶を呼び起こすタネを、身近な環境に散りばめることができる可能性もあると考えています。このことに関しては、今後検証していきたいと思っています。
「オンライン授業」で本当に身近なものに介入する
「芸術作品は作る者と見る者という二本の電極からなっていて、ちょうどこの両極間の作用によって火花が起こるように、何ものかを生み出す」
とは、マルセル・デュシャンの言葉です。
今回のワークショップでは、プログラムを通じて「見る者(子どもたち)」が、「作る者(ここでは、ペンの使用用途や既成概念)」から解放され、まっさらな状態でモノと対峙することを行いました。
そのようにして改めてモノをみることで、今まで気づかなかった疑問や課題が生まれ、新たな発想につながっていくのではないかと考えたからです。
その体験をより劇的に演出するために、今回は子どもたちにとって印象や経験や情報でドロドロにまみれた「家の中のモノ」をあえて題材素材として用い、オンラインによってリアルタイムに、視点を変えるための教育的介入を行うことができました。
それは、子どもたちの普段の生活空間をも学びの機会として直接的に活用できるということであり、学びのきっかけとは本来生活の中に潜んでいるということを考えると、テクノロジーによって学びの原点を体験できる機会を提供できた、とも言えそうです。
「オンライン授業」は、どこからでも気軽に授業に参加できる便利なツールであると同時に、工夫次第で子どもたちの学びの体験をより効果的なものに変化させられることもできそうだな、と感じることができた機会になりました。
複数の美術館や科学館で、
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