今回は「まちづくり」です。
Phase006の記事にも登場した、ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下CSL)。
現在私は、そんなCSLのリサーチャーでいらっしゃる竹内雄一郎さんによるWikitopia Project(ウィキトピア・プロジェクト)のお手伝いとして、京都に通っています。
計算機科学者・竹内雄一郎さんによる、Wikitopia Project
Wikitopia Project(ウィキトピア・プロジェクト)は、ITをはじめとした先端的な科学技術を活用することで、オンライン上の百科事典Wikipediaのように「みんな」でつくる未来の都市を実現することを目指す研究プロジェクトです。科学技術振興機構(JST)の支援を受け、2017年11月に発足しました。計算機科学者の竹内雄一郎が代表を務め、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所、一般社団法人ウィキトピア・インスティテュートなど日米二カ国にまたがる複数の組織や個人が参加して活動しています。(Wikitopia Project HPより抜粋)
都市において課題を発見した時に、これまではその解決までに時間や労力がかかっていましたが、これからは3Dプリンタなどの先端技術を駆使することで、市民主導によるもっと気軽で実効的なまちづくりの仕組みができるのではないか、というプロジェクトです。
竹内さんは現在、CSLで新しく開設された京都研究所に在籍しており、このプロジェクトを京都・西陣地区にて展開されています。
ここでいう「みんな」とは、例えばまちづくり関連の活動に積極的に参加する人だけでなく「その地域の全員」です。
また、想像できないほどに広い「みんな」を対象にすることは、多様な世代、文化、考え、経験などが網の目のように交錯するということ。
このことはひるがえって考えると「慣れきってしまって全てわかりきっていると思っている」都市環境を、他者の視点を借りることで全く新鮮な気づきを創出する、絶好の機会になりそうだなと、このプロジェクトについて知った時に私は感じました。
Wikitopia京都版「でででプロジェクト」
さて、今回の京都・西陣地区でのWikitopia Project。
私の他にも、株式会社ツナグムさん(「京都移住計画」をはじめとして、人と人、人と場のつながりを紡ぎ、生き方・働き方の選択肢を拡げ、共に生きやすい社会を実現していくための多様なプロジェクトを展開する)や、京都信用金庫さん(様々な人の「?」が集まる場所として設立されたQUESTIONをはじめ、金融事業に限らず地域住民を巻き込んだ、関わる一人ひとりに喜びや幸せをもたらし地域を豊かにしていく事業を展開する)など、住む人や住もうとする人の主体的な地域づくりに取り組む個性豊かな面々が参画されています。
ちなみに私は、より広く市民が能動的に参画できる形を考えるワークショップデザイナーとして関わらせていただいています。
なお、先日オンライン開催された「CSLオープンハウス2022」のアーカイブ映像に、関係者による概要説明やディスカッションの様子が公開されておりますので、よろしければ本稿と合わせてご覧ください。
このプロジェクトは「みんな」でつくる未来都市の実現を目指すのですから、その第一歩として、そもそも「みんな」を実現するということと、「街に対する潜在的な視点を掘り起こす」を軸にしてワークショップを考えました。
そこで新たに京都独自のものとして生まれたのが、「でででプロジェクト」です。
まずは地元住民をワークショップ参加者とし、みんなで街歩きをしながら「ええで!」「あかんで!」「なんで?」の3つの「で」にあてはまる街のポイントを収集しwebに公開、共有していこうというものです。
今回は、5月頃に想定している一般参加を募る本番に向けて、とりあえずまずはチームメンバーの自分たちで「ででで街歩き」を試してみよう、ということになりました。
皆、勝手知ったる間柄ということで、会はゆる〜く和やかな雰囲気で進行していきました。
どんな「ででで」が見つかったのか。クリックしてお楽しみください。
実際に街歩きしてみると、空や電柱など上の方の位置にあるものばかり気がつく人や、目だけでなく鼻で気づく人、同じ場所でも違う印象を持つ人など、当たり前ですけど十人十色の気づきがあった訳です。
中には、多くの魅力的な街歩き系イベントを開催されている(本当に楽しそうなんですよ。参加したい)プロもたくさんいらっしゃるのですが、それでも「はじめて見つけた」というポイントも多かったようです。
街における「みんな」って実は難しい?
今回は、まちづくりに関心のある慣れた人や、私たちのように東京から訪れてはいるが、企画意図を知っている人など、比較的同質と言えるメンバーが参加しました。
それでも、多様と思える気づきがあった訳ですから、これが本番で、街歩きができるギリギリの子どもからおじいちゃんおばあちゃんまでといった多様な参加者が集ったら、一体どんなことになってしまうんだろう!と今からとても楽しみです。
子どもや大人が、この「ででで街歩き」を通じて他者の存在に体験的に気付き、実寸大の広い街というレベルで果てない多様性を実感した時、例えば、「『すべての人にとって幸せな状況』を実現するのはとても難しいのかもしれない」と思うかもしれません。
「でででプロジェクト」は課題をみつけ共有することがゴールですが、Wikitopia Projectが目指すように、3Dプリンタを使って、課題を解決するものを実際につくることになることもあるでしょう。
多様な人とのかかわりの中で見つけた課題であれば、単に「困っている人のために椅子をつくろう」となるだけでなく「別の人にとっては邪魔かもしれない」「だったら出し入れができるような形がいいな」と思考を深めていけるのではないでしょうか。
さらに言えば、「今は必要かもしれないけど、次の世代には必要ないかもしれないので、頑丈で安全だけど取り外せるようにした方がいいな」という、予測をたてることもできるのではないかと、私がワクワクしちゃっているところです。
みんなが、ものづくりを手段としてまちづくりに参画できることになったら、「本当にそれをつくっていいのか」という批判的思考が大事になって来るのかもしれません。
このことは、大元のWikitopia Projectの「テクノロジーを用いると手軽にみんなでつくれる」ということから可能になるプロトタイプを制作しての試行錯誤、ということにつながるのでしょうし、あるいは、昨今課題として取り上げられるようになったスクラップ&ビルドからの脱却について思いを巡らせることにも繋がるのかもしれません。
そんなことを考えながら、私のワークショップデザイナーとしてのミッションは、「初めて会う人たち恥ずかしいーモジモジ」とか「すごい年上の人だからなかなか話せない」とかを早い段階で克服することと、「真の意味での、みんな」が参加できる環境を実現することにあると、勝手に決意しているところであります。
今回の「でででプロジェクト」は、まちづくりのプロジェクトではありますが、私はこれを、人のつながりを軸とした、STEAM教育における「導入の実践」と捉えています。
このプロジェクトはまだまだ始まったばかり。
私もこれからどうなるか全然わからず本当に楽しみな企画です。
今後も展開をご報告していきます。
さて、私事ではございますが、この4月1日から板橋区立教育科学館の館長を拝命いたしました。
齢38の若輩者が「館長」という大役を本当に勤めることができるのか、ドキドキワクワク、身が引き締まる思いでおります。
引き続きご指導のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
コメントをお書きください