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Phase013:「教えてもらう科学館」から「気づきをもたらす科学館」へ

4月に板橋区立教育科学館に着任して早1ヶ月。

今回は、板橋区立教育科学館のとある1日の出来事をご紹介します。

 

先にお断りしておきますが、画像は最後の1枚だけです。

 

 

よくきてくれる野球少年

 

最近、私にも友達ができました。

近くの小学校に通う新5年生の仲良し少年コンビ。野球仲間だそうです。

いつの日だったか、外でバットを背負って歩いているところにサイエンスイベントのチラシを渡したら、

そのまま遊びに来てくれたことがきっかけでした。

 

それ以来、学校が休みだったり早く終わったりする日は、たとえ嵐の日でもずぶ濡れになりながら遊びに来てくれます。

そんなときは決まって受付にきて態度大きめに

「カンチョーいる?」って呼びに来て閉館までいてくれます。

帰りには必ず私が「次回はかならず友達10人ずつ連れてくるんだぞー」なんて言うもんだから、

いつも「カンチョー! しょうがないから今日はお客さん3人つれてきてあげたよ! 今月はノルマ達成できる?」

なんて言ってきます。

ノルマ、なんてどこで覚えたんだろう。

 

 

形をもとに、化石の情報を自ら探す

 

さて、その日彼らは、

「カンチョー!この化石何か知ってる?教えてよ」

と国立科学博物館で開催中の企画展「ポケモン化石博物館」展のチラシを持ってきました。

 

指差している箇所をよくみると、チラシの隅っこに、渦を巻いた形状の貝っぽい化石の写真と共に

「この化石はなにかわかるかな?」という問いかけが。

 

「Googleでどうやって検索すればいいかわかんないし、先生にきいてもわかんなかったんだけど、そういえばカンチョーにきけばいいんだって思ってきたよ」。

 

とはいえ、私は化石の専門家ではないので、なんとなくアンモナイトの仲間、っていうことしか思いつきませんでした。

 

そのため、

「よし、科学館にある本から探してみようか。もう友達だしいっぱいお客さん連れてきてくれてるから、カンチョーも一緒に探してあげるよ。まずは恐竜とか化石とかそれっぽい本、全部集めてみるか!」

ということにしてみると、

「よっしゃー!いくぞー!」

と、さながら宝探しの様相です。

 

しかし、科学館には本当にたくさんの恐竜や化石の文献や図鑑があるので、なかなか調査の糸口が見えません。

 

そこで、私から「この形に似たやつでまずは探せば?」と伝えました。

するとしばらく黙々と探してから、

「ねえねえ、なんかわかんないんだけどこの形、いろんな本の二畳期(※)ってページに多い気がする」

「二畳期ってなに...きいたことない...」

「でもこっちの本にもそんな言葉書いてあった気が...」

「これだんだん近くなってんじゃね?」

なんて会話がでてきて、

「なんか名前にYabeって書いてあることが多いから、もしかして矢部さんが見つけたんかな?」

とかなんとかつぶやきながら、ついに、

「あったあああああああああ!!!!これじゃない?!?!」

と言うことになりました。

 

 調査開始から4人+カンチョーで正味2時間くらいのこと。

 

私自身も正直なところ、まさか自分達の力で見つけてしまうなんて思っていなかったですから、本当に驚きました。

「これ持って絶対カハク(国立科学博物館)にいく!!」

っていうので、見つけたページのコピーをしてあげて、その日は解散になりました。

 

「お前、そこいくの?いいなあ、俺も一緒に見つけたんだから、一緒にカハクいこうよ」

「いいよ、みんなでいこうぜ、親に相談しようぜ」

「俺たちがみつけたことって、名前だけじゃないから、絶対カハクの人より俺たちの方が詳しくなってるぜ」

「この貝って実物あるのかな、早くみたいな、どんな大きさなんだろ?」

「親がダメっていったら、カンチョーが電話で親に頼んでよ」

カンチョーは意外と忙しいので、親に電話することはないよ。

 

 

後日またあそびにきたので、カハクどうだったかきいてみたら、予約がとれなくてまだ行けていないそう。

でも、絶対行くんだ!と言っていたし、仮に行けなかったとしても、この記憶は学習態度として定着していってくれるのではないかな、

と期待をしています。

 

教える、ではなく、気づきをもたらす環境を

 

冒頭、もし私が知識をもっていて、

「ああ、それアンモナイトの仲間なんだよ」

と言ってしまっていたら、彼らの感動はなかったでしょう。

 

また、検索して答えがわかっていたら、調査の寄り道をすることがなかったわけで、恐れ多くもカハクの研究員の先生よりも自分のほうがすごい、なんて思わないでしょう。

 

私がこれまで対話型鑑賞を多く行ってきた経緯から、意図せず自然とそのような声かけになっていたのだと思いますが、この対話型鑑賞的なファシリテーションは、学びを自分ごと化すると言う意味で、教科にとらわれず広く一般化されるべき手段だと改めて感じました。

 

私たちは、いつでも気軽に遊びに行ける地元の科学館として、「教えてもらう科学館」から、「気づきをもたらす科学館」を目指していきます。

 

 



※二畳期

古生代最後の紀で、両生類時代ともされ、およそ今から2億8600万年前から2億4800万年前までの期間をさす。現在はペルム紀と呼ばれることが多い。

 

 

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Author:清水輝大(しみずてるひろ)
1983年、北海道生まれ。
板橋区立教育科学館館長、ラーニングデザインファームUSOMUSO代表、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所教育共創ラボ研究員。
青森県立美術館、はこだてみらい館、八戸ポータルミュージアムはっち、ソニー・グローバルエデュケーションなどを経て、現職。
図工美術教育の手法を援用し、創造的なSTEAM教育、プログラミング教育、探究学習などの実践研究を行う。