今日も少しプログラミングを離れて、私が所属する科学館の運営テーマを少しだけ。
考えてみると、このブログでは科学館での事例や起こったことについてはいくつかご紹介していましたが、科学館そのものについてはご紹介しておりませんでした。
改めまして私はこの4月から板橋区立教育科学館館長に着任しています。
1988年9月20日に開館した科学館で、350円(大人価格)で様々なプラネタリウムコンテンツが楽しめたり、ここまで状態のいいものは珍しいといわれる本物のトリケラトプスの頭骨化石があったり、たくさんの科学実験教室をやっていたりと、長年地域から愛され続けている、あたたかい雰囲気の科学館です。
ちなみに、全国で区立として科学館と名前の付いた施設は、港区立みなと科学館と当館の2館だけで、全国的にも貴重な存在なんですね(と自ら言ってみる)。
人との出会いと、学びとの出合い
さて、そんな歴史ある科学館の館長というとても重たいバトンを受け継がせていただいたわけですが、それに伴い、新たに館の運営テーマを「人を展示する科学館」と設定いたしました。
ちょっと話は逸れますが、私は中学校3年生の理科の期末テストで、全3回すべて100点だったことが、大人になった今でもちょっとした自慢だったりします。
当時私はとても理科が好きで、理科の定期テストの準備だけは本当に念入りにやっていたのを今でも覚えています。
その準備がまったく苦じゃなかったんですね。
なぜそこまで理科が好きになったのか思い返すと、それは、理科の担当だった堀先生という方がとても魅力的だったのが大きな要因でした。
先生は、理科の話だけでなく、たとえば、人としてアイデンティティをもつことが大事だという話をしてくれましたし、それに伴って理科の授業中に永平寺の修行僧の録画番組を見せてくれたこともありました。
それは私とって「自分の視点でみる」「自分で考える」ということはどういうことなのかを学んだ原体験となっているし、先生の姿は中学生の私の目に圧倒的にかっこよくうつり、堀先生に学ぶ「自分考えて、自分で試し、自分でやり直す教科」としての理科が、とてもおもしろく感じていたように思います。
私は、この私の原体験が、私以外の多くの人々も一度は体験したことのある、自然な学びとの出合いになっているのではないかと考えます。
近所のかっこいいお兄ちゃんが、法律を楽しそうに、使命感をもって学んでいたとか、とても信頼する親友がおもしろい大学の授業を紹介してくれたことがその後のライフワークにつながっているとか。
知の欲求をかきたて、持続するきっかけとして、人との出会いが大きな要因のひとつになっていることが多いと考え、その構造を、そのまま科学館の運営テーマにあてはめたのが、冒頭の「人を展示する科学館」です。
ちなみにそもそも、板橋区立教育科学館は「身の回りにある科学を啓蒙する」というミッションをもって設立されました。
それを現在の時代性に合わせて「サイエンス」や「探求」、「既知を疑い、未知に興味を持つ心」などについて考え、「いま、板橋の科学館としてあるべき姿」を問い直してて行きついたテーマでもあります。
地元の人を通して、身の回りの科学の存在を知る
「人を展示する科学館」には2つの出会いの軸があります。
まず1つめは、「人の営み」です。
多くの科学館の展示の場合は、学問領域に沿って展示構成がなされますが、私たちはキュレーションの軸を、「人の営み」を切り口に設定しようと試みています。
身の回りに目をやると、実はサイエンスは、学問領域に沿って整理整頓して並んでいることはなく、すべての分野が混在となって細かくひっそりと存在しています。
それらを、たとえば地元の人を展覧会などで紹介することによって、その人の営みの向こう側に実際に存在するサイエンスの在りかを示唆していくことができるのではないかと考えています。
たとえば、現在当館では夏の企画展として、板橋区に本拠地を置くヘルスメーターで有名な(株)タニタの創業者、谷田五八士(たにだいわじ)氏を取り上げる展覧会を行っています。(企画展の詳細はこちらから)
「健康をつくる」企業に至るまでの氏の実践の変遷は、意外なことにジュラルミン製のシガレットケースの製造から始まり、ハンガーや自転車のブザー、電気ヒーターの製造も行うなど分野横断的です。
しかし一貫してものづくりの視点をもって人々の生活をみつめ、生活をより豊かにするために変革をもたらそうとしてきた氏の態度はまさにイノベーティブと言えるし、身の回りに潜むサイエンスの種を見つけようとするものであり、私たちにその在りかを示唆してくれているようにすら思えます。
このような展示は、板橋の科学館でしか体験できないサイトスペシフィックな学習機会を提供することにつながることも期待しています。
科学館のスタッフとの交流を通して、身の回りの科学の存在を知る
2つめは、「科学館の人」です。
これまで当館ではスタッフを「解説員」と呼称していましたが、4月より新たに「研究員」とし、「ラボ制」という新しいシステムを導入しています。
「ラボ制」とは、当館の研究員が各々の専門や興味領域について、自分の研究やそれに付随するイベントを科学館の環境で行い、来館者はそれを覗きに来る、というコンセプトのものです。
当館の研究員は、ウニなどの棘皮動物を専門としていたり、100年前の映像の研究をしていたり、それぞれで様々なバックグラウンドを持っています。
館内で自分の研究活動をしている研究員に、子どもたちが出会い、研究員と仲良くなることで、生きたサイエンスや学問との出合いを演出し、ひいては「多様に興味を持つこと」に興味をもってもらおうとする企画です。
たとえば、動物の骨の模型や標本をよくネットで買って科学館に持ってきたりしている研究員・クワちゃんは、自身で「クワちゃんラボ」を開設して、先日は食べた豚足の骨を子どもたちと一緒に組み立てなおしていましたし、最近、メディア考古学会という学会の立ち上げメンバーとなった研究員・山ちゃんは、昨日も、タンスのような形だけれど得体のしれない雰囲気を放っている100年前の電気治療器なるものを館に持ち込んで、「これでどんなことしてやろうか」とニヤついていました。
かくいう私も、創作室という図工室のような部屋を勝手に「カンチョー室」と名称を変え、子どもたちと様々な発明の試作を行っています。
多様な領域に興味を持ち、それを深める研究員と出会うことは子どもたちにとっても刺激的であるらしく、最近は「今日、クワちゃんいるー?」とか「カンチョー呼んで!」とかいう我が物顔な来館客が増えてきたように思います。
教えてもらう科学館から、ともに考える科学館へ
これまで彼ら来館者の子どもたちにとって、科学館はわからないことを教えてくれるところだったそうです。
もちろんその側面も大事ではありますが、今日、それだけでは地域に根ざした我々の機能としては不十分だと私は考えています。
「人と出会う」ということをきっかけとしてサイエンスを見つめなおしてみると、そこに人がいるのですから、自分の生活と置き換えて考えることもできるし、その人と意見を交わしたり一緒に調査したりすることもできます。
私たちは、子どもたちが深く探求していくきっかけとなるような環境を整備し、子どもたちとともに考え、子どもたち自身が気づくことができる科学館を目指していきたいと思っています。
板橋区立教育科学館の取り組みはこちらからご覧ください。
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