今回は、ソニーのMESHというIoTブロックを使って実施した、プログラミングワークショップについてご紹介いたします。
自信満々の猛者たちが集まるプログラミング講座
<本日のワークショップの流れ>
①導入1
MESHのプログラミングに慣れる「〇〇したら笑うマシーン」
MESHの紹介。箱を開けたら笑うだけの、シンプルなプログラミングを体験。
②導入2
同じプログラミングで「誰かにイタズラマシーン」
難しいプログラムに変更してはいけない。親や先生など、対象者を設定し、①のシンプルなプログラミングだけで、おもしろいイタズラができるマシーンを考える。しみてる(私)からは、座ったら「ブリブリ」と音がするブーブークッションを参考として紹介。
③導入3
どのセンサーを使ってる?どんなプログラミングになってる?「しみてる特製・回復魔法手袋」を予想してつくってみる
MESHを使ってしみてる(私)がつくった、体に触れるだけで対象者の疲れが回復してしまう回復呪文が流れる手袋の挙動をみて、プログラミングや使用しているセンサーを想像してつくってみる。子どもたちはいろんなプログラミングを考えるけど、実はしみてる(私)が使っているプログラミングはここでも①や②と全く同じプログラミングを使用している。
④展開
MESHと電球を使って「〇〇なジャック・オー・ランタン」をつくる
「この世の終わり、最恐のジャック・オー・ランタン」「道ゆく人を元気にするジャック・オー・ランタン」「他の誰よりも自分にお菓子をあげたくなるジャック・オー・ランタン」などテーマを決めて製作。
⑤発表
部屋の電気を消して他の人のつくった作品を鑑賞・体験
以上
実は板橋区立教育科学館が「中級〜上級」と表示する一番の所以は、決して「高度なプログラムを書く」ということだけではありません。
「プログラミングの基礎的な経験が少しでもあり、それを生かすアイディアを生み出すことができるようになる」という意味で「中級〜上級」と設定しています。
そのため、このワークショップ構成は、画面の中だけのプログラミングから、段階的に世界へと視野を広げていけるように意図して設計してみています。
言い換えるとそれは、「プログラミングありきで動きを考える」から、「動きや世界の状況からプログラミングを考える」へと、思考の順序を逆転させていくための学習活動と言えると思います。
猛者たちの苦悩
腕に覚えのある参加者は、まず①でナメてかかってきます。
「ふんっそんなのできるよ」
「簡単すぎる、早く次いこうよ」
といった感じで、勝手に、話も聞かず、複雑なプログラムを書こうとすることもしばしば。
しかし、②あたりからひっそりと困り始めることが多いようです。
「プログラミングでイタズラってどうしたらいいんだ?」
「しみてるが考えたブーブークッション以外、なにかつくれるのか...?」
ここでは、いちどプログラミングから離れ、学校や家でなにして遊んでいるか、どんなイタズラをしたことがあるかを聞いてみると、たくさんアイディアが出てきました。
③になって、私がつくった「回復魔法手袋」の具体的な「動き」や「反応」をみて、プログラミングを予想してみるという、いつもと逆の活動を行ってみました。
こうしてみると、子どもたちはとてつもなく複雑なプログラミングを想像しがちだということがわかりました。
「答えはね…」
と、さっきと同じシンプルなプログラミングを前のモニターに表示したときの
「えーーーーーなーんだー!!!」
「そんなのかんたんじゃーん!!!」
「そんなのだったらわかってたよーーー!!!」
……いやいや、わかってなかったじゃん。
ここで大切にしていたのは、まずはシンプルなプログラミングだけでも工夫次第でおもしろいものがつくれる点。
そして、私のプログラミングを正しく再現できることが必要なのではなく、回復魔法手袋の「動き」がディティールまで等しいことであって、動きが正しければプログラミングが違っててもよい、という点です。
この場面では、本来私の回復魔法手袋の動きをじっくりとよくみる、ということが必要なのですが、なにも声掛けをしないと、子どもたちは一瞬手袋をみたあとは、じっと自分のタブレット画面だけを見続けるのでした。
プログラミングベースではなく、目的ベースで考える声掛けを
私は、特にプログラミングワークショップにおいて「君たちはもっと素晴らしい発想ができるはずなのに」という印象を持ってしまう場面に多く遭遇することが気になっています。
それは、無意識のうちに「プログラミングとはこういうもの」という固定化された視点によって考えてしまっているから、ということもあるかもしれないし、そもそもプログラムをいじること自体が楽しくなっている、ということもあるでしょう。
学習ツールとしての「プログラミング」が持つ、子どもたちを惹きつける強さは、本当に凄まじいものがあります。
私は、このプログラミング・パワー(と呼んでいます)の存在を意識して、学習活動に効果的に利用できるようにすることがとても大切だと考えます。
この力は、うまく使うと圧倒的な学習意欲を引き出すことができますが、ただほっておくと子どもたちの視野は液晶画面の面積範囲へと、どんどん狭まっていってしまいます。
プログラミングはとても得意なはずなのに、「プログラミングでのイタズラ」をひとつも発想できなかった子が、「普段のイタズラ」なら大量にひらめくことができたことは象徴的な出来事でした。
普段のイタズラをひらめいたあとは、「人感センサーと音声とライトを使って驚かせた瞬間に、カメラでその人の顔を撮影して、変顔を撮影しちゃうしくみ」など、それまで悩んでいたことが嘘のように、自慢のプログラミングスキルを発揮して開発に没頭していました。
より学びを深めるために
子どもたちの自発的な試行錯誤を引き出し、創造的にプログラミング学習を行うことが、生きた学びにつながるであろうことは、このブログの中でこれまでも書いてきました。
そのための心がけとして今回は、授業者が、場や環境とプログラミング画面との視点の往還を引き出すなどしてプログラミング・パワーをうまくコントロールしつつ、多様な発想を引き出し、子どもが目的を明確化し手段を整理できるような環境をつくり出すことがとても重要なのだろうなと感じました。
ここまでの、長い長い導入を経て、子どもたちはやっとジャック・オー・ランタンの製作にとりかかりました。
本気で誰かを驚かせるために、ひとつでも多くのお菓子をもらえるために、という目的意識は、それまでの活動のように一瞬で薄れてしまうこともなく、もっと良くするための試行錯誤の軸として捉えられていた子が多かったように見えました。
板橋区立教育科学館の取り組みはこちらからご覧ください。
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