先日、当館プラネタリウムを会場に「おとなのサイエンストーク 科学の現在地vol.1 ひらめきを育む」が開催されました。
昨年「コミュニティ・オブ・クリエイティビティ(日本文教出版)」を上梓された(こちらのブログの読者の皆様にはきっとおなじみですね!)、奥村先生・有元先生・阿部先生をゲストにお招きしました。
会場の雰囲気含め、なかなか濃ゆい2時間だったので、すべてをお伝えするのは難しいのですが、今回と次回の2回に分けて、私なりのポイントをいくつかのかいつまんでご報告したいと思います。
先端的なサイエンスが日常生活と触れ合う「際」を紹介する
このトークイベントは、「科学の現在地」と銘打ったシリーズとして企画した第一弾。
私は、変化の激しい不確実(VUCA)な時代と言われるようになった理由のひとつを、科学技術/情報技術などの進歩から、それら技術が実生活に反映されるまでのスピードが、圧倒的に加速している点にあると考えています。
昨日までできなかったことが今日できるようになる、しかもその変化は、たとえば人々の倫理観にすら影響を与えるような大きなものであることも珍しくなくなりました。
この企画は、各分野において革新的かつ生活に密接である部分を研究・実践している方々と出会い、共に考え、常に生まれ続けている「次世代」の前夜を、皆で共有していこうとするものです。
今回のテーマである、人の営みとして根源的な「つくりだす」「思いつく」を考えることは、このシリーズのスタートとして大変ふさわしいものとなったように思います。
会は突然、有元先生のワークからスタート
当日は各先生方の自己紹介もまだないままに、いきなり有元先生による「カウントアップ」の体験からスタートしました。
カウントアップとは、参加者が、同時に発言しないように察しながら順番に数字を数えていくアクティビティです。
会場の参加者どうしは、その数分前に初めてその場に集ったばかりなわけですから、状況としては、ワークショップに初めて参加する子どもがいきなりアイスブレイクを体験することと極めて近い体験となりました。
有元先生の軽快な語り口によってテンポよくワークは進行し、「他の人が発言するんじゃないか」と静かに空気を察する緊張と、それでも同時に発言してしまって「ああー!!」と顔を見合わせる笑い声のその塩梅が、絶妙に空気を柔らかくし、会場は早くもゆるやかな一体感を醸し始めていたような気がします。
「視界の隅でみていること」の大事さ
まずは議論のきっかけとして、実施。
教育科学館で直近に実施した図工プログラミングのワークショップ「ハイパーMAMEシューティング」について私からご紹介しました。
(「ハイパーMAMEシューティング」についてはこちらもご覧ください。)
紹介するやいなや奥村先生から
「ここがひらめいてるポイントだと思ってるから写真とってるし、ピックアップしてるんでしょ?でもここじゃないんですよ」
という、無意識な心の中をえぐり出すような先制ジャブが飛びます(ちなみに写真撮ったのも、写真をピックアップしたのも私。ちょっとはずかしい...)。
「この場で、一番ひらめく場所わかります?この通路ですよ。作業台の間を通って、素材を取りに行く、その往来で、子どもたちは視界の隅で他の人の行動やつくったものをよくみているはずですね(奥村先生)」
「視線の脇にちらっとみえたものや、ちらっと聞こえた話し声がとっても重要なひらめきのきっかけになったりしますよね。学校でも最近壁の仕切りを減らしてオープンにするっていうことがありますけど、それも同じ狙いなんじゃないかなと思います(阿部先生)」
たしかに、このイベントではリピーターの得意げなふるまいが、初めて参加する子にもどんどん伝染して、イベントの中で友達の輪が広がっているのは、先日もこちらでご紹介したばかりです。
「通路が大事」という指摘はつまり、子どもたちの視野をイメージすることや、見ているとばれないようにみようとする子どもの微妙な心理までも意識することが「ひらめき」には重要であるということと、私は理解しました。
もしかすると、「ひらめこう」としてひらめくことはなかなか難しく、空間を構成するあらゆる要素からいかに情報を自然と受け取れる環境をつくるか、がポイントのような気がしました。
仲間になれる場、親子になれる場
「これは、その場でⅠ(個人)がWe(コミュニティ)になっていっているところが大事なんですよ。ふたりの男の子が並んで没頭しているような状態が見えるし、作業台単位でもそう。アイスブレイクのようなことをやっているのかもしれないけど、他の人を視界の隅でみながら、つながっていっていると思う。この横のつながりが、なによりも大事(有元先生)」
「この場は、親子になれる場なんだと思います。普段、仕事をしていたり、家事をしていたりと、純然たる『親と子』に集中できる場が意外とない中で、貴重な場と言えますね(奥村先生)」
確かに、職業としての仕事や家庭の中の仕事、子どもたちは学校の課題や学習塾の授業を日々こなしていく中で、親と子の立場で認め合い、ものづくりを通してゆっくりとディスカッションする時間、意外とないのかもしれないなと思います。
ましてや、初めてそこで出会った家族でも同じ学校でもない遠い存在としての「ただ同時に居合わせた参加者」ならなおのことです。
私は、コミュニケーションする相手との価値観や視点の落差は、ひらめきにどう作用するのかな、なんて考えたりもしていました。
そんな話をしながら、「We」と書かれた札をステージの高いところに掲げる場面も。
他者を自然と理解していくことで安心して他者と交流し、交流の中から自然とひらめいていくことは、まさにこのイベントが始まった瞬間から、ゲストのお三方のリードで会場の参加者とコミュニケーションをし、考えを巡らせて言っている自分が体験しているものだろうと思いました。
なぜか「ひらめく」と聞くと、ひとりで勝手にアイディアがうかんでくる劇的なものを想像しがちですが、そうではなくて、学習者の素朴な行動や視野を背景としながら、いかに自然なコミュニケーションを生み、コミュニティ化していくか、がカギを握っていそうです。
――――――
今回(直前にひらめいて)導入したフリップ式パネルディスカッションによって「ひらめき」と「コミュニティ」の関係についての議論は、どんどん熱気を帯びていきましたが、その様子はまた次回。
なお、イベントの様子はYouTubeで閲覧できるよう鋭意準備中ですので、お楽しみに!
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板橋区立教育科学館の取り組みはこちらからご覧ください。
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