Phase023、Phase024より続くトークイベント報告、延長戦です。
Phase023:トークイベント報告①ひらめきを生むコミュニティ
Phase024:トークイベント報告②「ひらめきの必要性」と「ひらめくためには」
昨年「コミュニティ・オブ・クリエイティビティ(日本文教出版)」を上梓された、奥村先生・有元先生・阿部先生をゲストに「おとなのサイエンストーク 科学の現在地vol.1 ひらめきを育む」を板橋区立教育科学館で開催いたしました。
ひらめきの積層
奥村先生によるアクティビティは、「ラウンドスケッチ」です。
素材は画用紙と数色のマジックで、4人程度が1グループとなります。
「みたこともない生きもの」をテーマに、全員がひとり1分間の持ち時間で描き、隣の人に画用紙を渡します。
画用紙を受け取ったら、別のメンバーが描いたものの続きを1分で描いていくというゲーム。
これを数回繰り返すと、最初に自分が描いた作品が戻ってきたときに思いもしない結果を目にすることになります。
奥村先生は言います。
「もっともらしいことを言ってしまうと、これは大人の仕事のようです。ある人がプロジェクトをはじめ、引き継がれ、多くの人の営みの重なりによって仕事は成り立っているからです」
「絵がまわってきたときに、ああ、こうきたか、では足を描いてやろう、などと思って描くことは、小さなひらめきの集まりなのです」
人の営みによる成果物には、どこか意思を汲み取ろう、と想像したくなってしまうことがあります。
あるいは、明らかに異質なものとして、自然と目に留まってしまう違和感が、ひらめきを引き出すフックとして、有効に作用しているようにも思えます。
これらのことは、オブジェクトとしての絵との対話であり、その向こうに「自分よりも前に描いた人」の存在が見え隠れしていることが、「よく見たい」という気持ちを引き出し、無意識的かつ瞬間的にひらめきのきっかけを絵から見出しているのかもしれないな、とも私は思いました。
有元先生が、「このアクティビティのいいところは、すべてを受け入れながら活動していることですよね。その意味では、すべてを受け入れて活動するわけではない大人の仕事とは異なる」と発言されたことも大変印象的でした。
ひらめきの例:喩えると出てくる
阿部先生によるアクティビティは、「人生とは○○である」です。
○○に当てはまる言葉を自由に考え、発表していきます。
会場では、「人生は遊びのようだ」や「人生は桜のようだ」、「人生はすごろくのようだ」など、たくさんの意見が飛び交いました。
これは、二つの言葉(例えば「炎」と「男」)を重ね合わせると、それぞれの言葉のみでは思い浮かばなかった特徴があぶりだされてくるという創発特徴というものを応用したアクティビティだそう。
たしかに「炎」だけでは想起されにくいであろう「情熱」という言葉が、「炎の男」と考えると自然と思い浮かんできます。
これはワークショップのネタにも使えそう。
ひらめきのサイクルを回す、承認環境
このトークイベント最後のパネルディスカッションは「先生や保護者へのアドバイス」。
この中で有元先生は「ひらめいたことを自信をもって口にできるような、まわりの受け止めが重要である」阿部先生は「子どもたちが気づいたことを大人や指導者側も自分事として捉え、なるほどねとうなづくだけでなく、次にどう生かしていこうかという感度を高めることが大事。子どもの一挙手一投足から多くを気づける事が重要であるが、気づけない人は単なる日常として片付けてしまっている場合が多い」とおっしゃいます。
確かに、他者のひらめきの上に自らの小さなひらめきが積層していくことが自然なひらめきであると仮定すると、そこにはひらめきを共有できる発言や表現が重要であり、ひらめいたことを自信をもってアウトプットできる環境が整っていないと、いわばひらめきのサイクルは途中で止まってしまうことになります。
この時私は、私自身の最近の体験を思い出しました。
親子ワークショップ中、私が全体説明をしている途中で、参加者のひとりの子どもが、私の説明に紐づいて気づいたことをふいに発言するときがあります。
たしかにこれは全体の進行を止めてしまう可能性があるので、その子の保護者は「静かにしなさい、いま発言する時じゃないの!」という注意をすることがあります。
但しそこで私は最近、むしろ積極的に、全体の進行を一時的に止めてでも、その子の目を見てしっかり話を聞き、全体に聞こえるようにわざと大きめの声でその子とじっくり対話するようにし始めました。
そうすると、「先生が説明中にうちの子が発言してしまった」「あの子が発言してしまってなんとなく気まずい雰囲気だ」といったネガティブ空気が一瞬で消滅し、親も子も全員で、全体の中で発言するということがいきなり当たり前な雰囲気に変わり、興味を持って耳を傾ける空気に一気に変わっていく、という経験を多くするようになりました。
これは大人側では「状況をわかっていない子が発言している」という言葉の内容まで知ろうとしない態度から、子どもが何を話しているのか一人の人の発言として聞き入れる体制が生まれるようになった気がしています。
更に、大人がそうすることで、子ども同士も自由に発言し、話を聞く、という雰囲気が生まれるため、自己主張のためだけの発言がなくなり、A君が発言したことを受けて次の子が発言するといった、全体の場での対話が生まれるようになりました。
ひらめきを育む環境には、大人の態度が大きくかかわっているのだと痛感した体験でした。
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3回にわたりご報告いたしましたこのトークイベント、「ひらめき」を多角的に捉えることで、私にとっては日々開発するワークショップの土台を、今一度立ち止まってじっくり見直すことができる、稀有な時間となりました。
このことは、図工・美術分野のみならず、あらゆる教科に通ずる、主体的・対話的で深い学びを醸成していく根幹のお話しだったように思います。
読者のみなさまは、どのようにお感じになられましたでしょうか。
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