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Phase036:教育科学館遊園地化計画①〜科学館デモクラシー〜

 私が所属している板橋区立教育科学館では、夏の企画展「教育科学館遊園地化計画」を鋭意準備中です。この展覧会は「科学館の遊園地化」の名のもとに、来館される方々をはじめ、地域の皆さんを含めたあらゆる人々のアイデアを集合して成立させようとしていて、当館としてもかなりチャレンジングな企画になっています。今回は、その企画意図をちょっとだけご紹介させていただきます。

 

 

 

本当に古くなっているのは、科学館のどこ?

 

 国内での科学館施設は、1980年代ころに多く開館し始めました。「科学館」と聞いて皆さんが想像される通り、その多くは、大掛かりで不可変な形態の常設展示を軸とする運営がなされてきました。それらは、類稀な没入的体験を来館者に提供してきた一方で、当然、年月が経つと老朽化し、アップデートが追いつかないことが課題になりつつあるように思います。

 

 一方で、たとえば当館の来館者を見てみると、科学館スタッフたちのお手製感満載の展示物や、外装がボロボロになってしまった展示物に対しても、特に問題なく楽しんで遊んでいる様子があります。更には大人の方なんて、「あー!私が小学生の頃遊んだやつがまだあるー!お母さんはこれでこうやって遊んでたのよ!」なんていうことも。そこに私は、ある種の「等身大感」を感じていて、最新のテクノロジー展示を体験した時の目新しさによる学びとはまた違う、おだやかで、浸透的に獲得されていく学びがあるように思っています。

 

 そんなこんなを考えた時、私は下の図のような構造で展示物を捉えるようになりました。

 一般的に科学館では、原理原則である科学知識について、ハンズオン展示としてモデル化し、体験できるようにしています。原理原則について感覚的に体験することができることの価値は不変のものだと思います。一方で、「どのように体験化するか」や「しくみの説明」などという「伝え方」は、体験する人の「おもしろい!」という興味関心に紐づくので、その時代の技術や価値観に大きく左右されます(この構造は、もしかすると授業の題材開発にも置き換えられるかもしれませんね。)。

 多くの科学館で老朽化しているのは、「扱っているもの」ではなく、まさにこの「伝え方」の部分であり、ここは常に変化していくべきだろうと考えるようになりました。なので、「そもそも展示室にある大掛かりな機材を全部一新する必要なんてないのでは?」「むしろ古い価値は新しく作れないのだから、機材はこのままの方がいい場合もあるかもしれない」と思ったりしています。

 

 

「体験的に伝える」≒「遊園地化」

  

 では、「伝え方」のアップデートとは、どのように考えるといいのでしょうか。

 

 私はまずは、視野を広げることが必要だと考えています。例えば、多様なテクノロジーによって「欲しい情報が」「膨大に」「刺激的に」「瞬時に」得られる(得たと思える)環境に生きる子どもたちに、どのような伝え方をすると興味関心を刺激できるのか。これを考えるためには、従来の「パネルに文字を書く、キャプション的表現」だけにとらわれない、広く自由な発想が必要になりそうです。

 そこで今回の企画展では、「遊園地化」という言葉を比喩として使い、既存の展示物を活用しながら、どのように、誰にとっても刺激的で「素直に楽しい」遊園地に近づけていくのかをみんなで考えることにしました。

 

 そこから生まれるアイディアは、科学館の既存物の「素直に楽しいポイント」を探して、それを増大させるためにはどうするか、ということになるのかもしれません。そうするうちに、もしかすると科学館における情報伝達は、従来の「解明」や「回答」を伝えるのではなく、「考えるきっかけを示すこと」になっていくのかもしれないし、「自分なりの答えを導くための伴走」になるのかもしれない。ひいては、文字で説明するものと、体験でしか伝わらないものを区別する作業にもなっていくのかもしれない……。とかとか、企画者である私自身も楽しみに思っているポイントだったりするのです。

 

 

なぜ地域の人と共創するのか

 

 そんな「伝え方をアップデートする」を、科学館内部で作りきるのではなく、なぜ地域の人と共創する必要があるのでしょう。

 今回のプロジェクトに参画する地域の人は、同時に来館者でもあるし、ずっと前からこの地域を作ってきた協働者としての住人でもあります。その方々が、科学館を改造していくのが今回の企画展です。実は我々は、「イベントをつくる科学館職員と、それを享受する市民」という関係から、「市民が自らリペア・リビルドし、科学館職員はそのためのきっかけづくりや専門知のフォローをする人」という関係へ変化していく布石となる企画展と位置づけています。なので「今回の企画は、科学館という存在のデモクラシーの提案なんです!」なんて言ってしまうと、大袈裟すぎると突っ込まれてしまうでしょうか。

 このことは、科学館としては、来館するたびに体験が変容している面白さを提供するための仕組みづくりでもありますが、より良い空間、より良い社会をともに作っていく、公共性の新しい捉え方の提案でもあるのです。

 

 

 さて、そんな展覧会は7月22日(土)からオープン予定。9月1日(日)までの開催です。会期中もどんどん中身が変容していく予定だし、会期前からたくさんプロジェクトが発足していく予定です。地域を挙げての文化祭のようなお祭り騒ぎ!の雰囲気になるといいなあ、なんて思っています。そんな妄想で気持ちを奮い立たせつつ、いまも鋭意内容を検討中で、どこまで大きく展開できるかはまさに企画者の頑張り次第...みなさん是非当館のイノベーションを通した公共性の在り方を考える機会に参加してみませんか。

 

★本企画展をはじめ、板橋区立教育科学館の取組みは、板橋区立教育科学館のサイトhttps://www.itbs-sem.jp/でご確認いただけます。

 

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Author:清水輝大(しみずてるひろ)
1983年、北海道生まれ。
板橋区立教育科学館館長、ラーニングデザインファームUSOMUSO代表、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所教育共創ラボ研究員。
青森県立美術館、はこだてみらい館、八戸ポータルミュージアムはっち、ソニー・グローバルエデュケーションなどを経て、現職。
図工美術教育の手法を援用し、創造的なSTEAM教育、プログラミング教育、探究学習などの実践研究を行う。