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Phase037:教育科学館遊園地化計画②〜軽いノリで公共が変化する場〜

 7月20日より当館でスタートする、「教育科学館遊園地化計画」展。

 この展覧会は、古くなってしまった既存の科学館の展示物を、「遊園地化」の名の下に、新しいおもしろい体験にアップデートしよう!というものです。

 アップデートする人が、科学館内部の人じゃない、というのがこの企画のポイント。

 プロアマ問わず、様々な有志の人が集い、語り合い、思いついたアイディアを実際に科学館にインストールしちゃいます。

 

 シンプルに楽しそうな感じになることを意識して付けられたこの展覧会名の裏には、公共のあり方を今一度考え直していこうとする、私たちの意思が込められていたりもします。

 この企画展について、ご紹介する全3回の記事のうち、今回は2回目。(1回目はこちらから。教育科学館遊園地化計画①〜科学館デモクラシー〜

 

 企画展の準備中、こんなことがありました。

 

 

発電を学ぶ装置の魔改造ポイントは、電車模型を変えること?!

 

 ある日の打ち合わせ。

 出展者の菊田さんと、もうお一方の出展者「ミスターX」さん(事情により謎の存在として出展)と、館内のどの展示物を魔改造しておもしろくするか、相談していました。

 菊田さんは長年、当館の古くてじゃじゃ馬な展示物のメンテナンスを担ってくださっている、すごいエンジニアの方。

 いろんなミュージアムで、菊田さん作の展示物が展示されているそうです。

 

 

:「この足踏み発電の電車模型も、いつも子どもたちに人気だから、様子が変わっていたらみんなびっくりするでしょうねえ」

ミスターXさん:「この中を走っている車両模型、他にもたくさんレアなものを持っているので、いろいろ入れ替えることできますよ」

菊田さん:「いいですねえ、たくさんもってきて横に展示してあってもおもしろいんじゃない?」

:「なるほど、それならさらに、カメラ車両の映像をどでかくして、実際に電車を運転しているようにしたい!」

 

とまあこんな感じ。

 

 一見、「科学館」という施設が実施する企画の相談には思えないかもしれません。でもむしろ、このことが、本企画の趣旨の一つ。

 プロの科学者でも、プロの芸術家でもない出展者のみなさんが、「科学」という言葉にとらわれずに、興味があることを「遊園地化」の名の下に実際にやりきるところまでやりきってもらおう!と考えています。

企画者としての私が内心「いいぞいいぞ」と思いながら話をしていたら、

 

ミスターXさん:「この大江戸線は、他の車両より全然小さいんですよ、ほら」

と大江戸線の車両と京急線の車両を比較して見せてくれました。

電車に全く疎い私は「ほんとだ!小さい!なんで??」と反射的に反応してしまいました。

菊田さん:「乗ってみてもぜんぜん広さが違うし、音も全然違うでしょ?」

ミスターXさん:「これを実現するために、実は車両はこういう構造になっていて...」

菊田さん:「しかもこの大江戸線ってリニアモーターカーって知ってました?教育科学館の地下のリニアモーターカーの乗り物は、山梨でびゅんびゅん走ってるやつじゃなくて、こっちのリニアモーターカーで、実は技術的には...」

 

という展開になりました。

 なんとも意図せず科学技術の話に...というわけではなく、ここにも企画意図があります。

 

 

 36年前に「身の回りのサイエンスを啓蒙する」という趣旨のもと設置された当館では、どのように「サイエンスを身の回りに感じてもらうか」ということを常に考えています。

 

 隠れているだけで、身の回りには、実はサイエンスのタネが無数に存在しています。それらを見るには、「科学的な何かを探そうとする目」が必要なのではなく、純粋に面白いと思うものを「深めていく」ことが必要なように思います。

 つまり、サイエンスにまでたどり着くための、身の回りのきっかけは(少し乱暴に行ってしまうと)「なんでもいい」ということになるのかもしれません。

 

 今回のやりとりを振り返ると、もともとは科学館に設置されている「足踏み発電で動く電車模型」をどう魔改造するか、ということでした。普通に展示のリニューアルを考えると「発電のしくみをもっと分かりやすくするにはどうするか」といった「ロジカルな理解の分かりやすさ」へと思考が向いてしまいそうなもの。そうではなくて、一見「科学とは関係ないよ!」言われてしまいそうに見える、でも出展者の方が「純粋におもしろい」と思う方向に考えていくと、自然と視点が深まっていく力を感じたし、一般の来館者にとってみれば、意外性をもって新鮮に体験化されるだろうことと思います。

 

 菊田さんとミスターXさんには、他にも館内のいろんなものを「決して子どもたちに迎合しない、純粋なおじさん的視点」で魔改造してもらうよう私から依頼しています。

 その他にも地元小学生のみなさんがプログラミングを使って魔改造したり、埼玉からわざわざ中学生がいらっしゃって、「デート」をテーマに魔改造したり、ジェットコースターを手作りできないか試行錯誤したりと、それぞれが、自分自身の視点で純粋におもしろいと思うようにつくってもらっています。

 

 

軽いノリで公共が変化する

  

 今回の企画では、そんな「軽いノリ」をとっても大切にしています。

 いきなり「科学のことを!」とか「公共のことを!」「社会のことを!」と考えようとすると重いし、動き出しにくくなるけれど、「私が純粋に『いい』と思うもの」であれば、軽いノリで考え始められると思っているからです。

 それを私たち公共の社会教育施設が実施することで、「軽いノリで公共に介入する」入り口になり、この経験がひいては「軽いノリの公共の提案」「公共が軽いノリでトライアンドエラーできる」ということに繋がっていくのではないでしょうか。

 ハードとしては3Dプリンターやレーザーカッターなどによって軽いノリで完成度の高いものが作れるようになってきましたが、ソフトである社会のしくみは、実はまだそれに追いついていないような気がしています。

 

 とはいえ、エゴが爆発しすぎてしまうと公共性を失うことになりかねません。そうならないようにする仕掛けとして、私たちは、コミュニケーションデザインを利用しようとしています。

 この部分も本展覧会の肝煎で、山口情報芸術センター(YCAM)の今野恵菜さんが協力してくれています(概要は改めてお伝えします)。

 まずは個人でおもしろいと思うトガったものをアウトプットし、他者と関わることでいい意味でカドがとれていって、さらにアップデートする。そんな、社会自浄作用のような、エントロピーをちょうどよい感じに下げていけるような仕組みを今回の企画展では実装します。

 

 あらゆるものは、落ち着きすぎると停滞していく。私たち科学館業界も常に気をつけていないと、落ち着きすぎてしまう可能性があると、自省的に感じています。

 停滞しているものを再活性化するためには「個人の思い」が生み出すいい意味でのハレーションが必要だと考えています。それがコミュニケーションを通してちょうどよい感じになっていく。ものだけではなく社会システムに対し、市民が自らリペア・リビルドしていけるようになることが、これからの「公共」には大切なのです。この展覧会では、教育科学館のまわりの公共のありかたそのものをアップデートしながら、私たちの存在自体も不断に変化し続ける、いい感じのバランスを模索していきたいと思っています。

 

 

なので本展覧会は、スタートの時に完成しているものはおそらく限られます。

YCAMの今野さんが検討してくれているコミュニケーションシステムによって、来館者の皆さん(つまり社会)からの批評が機能しないと、この企画展は成立しないし、活性化しません。

だから、みなさん来てくださいね!

ともに、公共に参加しましょう!

 

★本企画展をはじめ、板橋区立教育科学館の取組みは、板橋区立教育科学館のサイトhttps://www.itbs-sem.jp/でご確認いただけます。

 

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Author:清水輝大(しみずてるひろ)
1983年、北海道生まれ。
板橋区立教育科学館館長、ラーニングデザインファームUSOMUSO代表、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所教育共創ラボ研究員。
青森県立美術館、はこだてみらい館、八戸ポータルミュージアムはっち、ソニー・グローバルエデュケーションなどを経て、現職。
図工美術教育の手法を援用し、創造的なSTEAM教育、プログラミング教育、探究学習などの実践研究を行う。