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Phase039:教育科学館遊園地化計画④~経緯を展示するということ~

板橋区立教育科学館では、およそ1ヶ月半開催してきた「教育科学館遊園地化計画」も無事閉幕を迎えました。

この展覧会は、当館では初めての、「経緯」や「行為」そのものを展示しようとする企画展でした。

その観点から、各関係者からのヒアリングをもとに考えたことを書いてみようと思います。

 1回目はこちらから 。教育科学館遊園地化計画①〜科学館デモクラシー〜

 2回目はこちらから。教育科学館遊園地化計画②〜軽いノリで公共が変化する場〜 

 3回目はこちらから。教育科学館遊園地化計画③〜公共からの学びで得られる、責任ある視点〜

 

 

 

出展者について

「『実社会』の中で育む、本気の発散と収束の反復」

 

 まずは自分の頭の中だけで思い描いたことを100%をやってみて、その後、実際の社会(展覧会)において無理なく成立するために、どこを改善するかというフローが、まさに発散と収束の流れとして、子どもたちの中に自然発生していたように思います。

 それはすなわち、自発的で探究的な試行錯誤を多く生み出していたように思います(代表例は前回の記事参照)。

(学校で言うところの「文化祭」が、長い期間継続して実施されている感じ?)

 

 このことは、不特定多数の人々が訪れる教育科学館が、社会と密接につながる装置として機能した結果と言えるでしょう。

 この「実社会の中で育む」ということは、昨今の「探究学習」や「STEAM教育」と密接な要素であって、今後の科学館のあり方を考える上で大きな軸の一つになっていくであろうと思っています。

 ただ、今回の企画展では「遊園地化」という明確なテーマに沿ってスタートしたのですが、「なにかをどうにかもっと良くする」という「自然発生的なテーマ」は本来、子どもたちから発生してほしいものであって、そのようなことが実現する環境を整備するには、もっと検討の余地がありそうです。

 

(余談ですが、昨今よく聞く「課題発見」という言葉はいきなり社会性を帯びているようで、個人的には私のイメージとはちょっと違っていて、ここでは使いたくありません。当館では、自覚できているかどうか微妙なところにある「素の自分がやってみたいと思っていること」を、自分の中から見つけて、とりあえずやってみるという、気軽さや素直さを重視したいと考えています)

 


 

 

鑑賞者の視点から

「私もつくってみたい、と思う。でも他人のプロジェクトには乗り入れられない」

 

 今回展示では「やっている人が楽しそう」「私も近くに住んでいたらやってみたい」というSNS上の声を多く目にしました。

 このことは私も一定の成果として捉えていて、「楽しそうな人のまわりには人が集まってくるんだな」と改めて感じました。

 つまり「作者が心から楽しいと思っていること」「作者が楽しいと思っていることを鑑賞者が感じられるような展示」がポイントとなりました。

 

 一方で、各作者ごとのプロジェクトの中身について言及されることを目にすることはほとんどなく、私は本当は「A君のつくったプロジェクトに、ふらっと現れたBさんが参画する」ということが起きるのを理想としていたので、それが達成できなかったことは、大きな課題として残ることとなりました。

 

 たとえばそれは、作者が考えたことを明確して伝える部分が不十分だったのだろうし、大きな手書きのキャプションや、作者の頭の中を垣間見る「検討途中での産物の展示」など、工夫したつもりではありましたが、改善の余地が大いにありそうです。

 

 鑑賞者は、当然のことながらふらっと現れるだけなので、作者の「やってみたいことへの気持ち」という「表現のきっかけ」の部分が同期されるような企みがもっと丁寧に作り込めたなら、結果は変わっていたのかもしれません。


 

 

科学館職員の視点から

「管理と発想のハザマで」

 

 当然のことながら通常科学館では、安全管理や保守の観点から、「展示物が壊れないように注意喚起する」「モノがなくならないように確実に管理する」ということをしています。

 

 しかし、今回の企画の出展物は、未完成なものを展示するわけなので、「さわったら壊れる」し、なんなら「ちょっと悪い人がいたら持っていかれちゃうかも」という展示状況でした。

 むしろ「鑑賞者が体験したら壊れちゃった」という結果は、作者にとってはさらなる試行錯誤を生むわけなので、これはこれで大いにあり!としていたのですが、実際に現場を管理するスタッフ側では「どこまで管理していいのか」というモヤモヤが常に付き纏うことになり、相当に苦労したことと思います。

 

 とはいえ、「〇〇までならやっていい」などという具体的な指示ができにくい場でもあるので、私としては「業務指示書」のようなものも明確に作れないし、なかなか困ってしまいました。

 

 オペレーション上の話ではありますが、日々の作品の変化が、作者への学びになるという意味では今回の企画意図と密接な関係にあり、今後このような企画を継続していくことで「うまい方法」を模索していきたいと考えています。

 

 

 今回私が感じたのは、企画や運営の価値観をまるっとアップデートしていく必要性です。

 たとえば学校教育で言えば、既存の教科の評価軸ではなかなか対応が難しいのが「探究」や「STEAM」という分野、という話をよく先生から聞きますが、まさにそれを目の当たりにした感じです。

 一方で、常に「感じ方」や「その表現に至った経緯」そのものについてを評価している図工や美術の先生方にとっては、そんなに違和感があることではなかったんじゃないかな、とも思います。

 主体的な問いを、学習者が立てられるための環境には、そこを運営・管理する大人側にも、「A」(アート)の価値観は必須だなあと改めて感じています。

 

 

★本企画展をはじめ、板橋区立教育科学館の取組みは、板橋区立教育科学館のサイトhttps://www.itbs-sem.jp/でご確認いただけます。

 

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Author:清水輝大(しみずてるひろ)
1983年、北海道生まれ。
板橋区立教育科学館館長、ラーニングデザインファームUSOMUSO代表、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所教育共創ラボ研究員。
青森県立美術館、はこだてみらい館、八戸ポータルミュージアムはっち、ソニー・グローバルエデュケーションなどを経て、現職。
図工美術教育の手法を援用し、創造的なSTEAM教育、プログラミング教育、探究学習などの実践研究を行う。