土の粘土
“危険な暑さ”の今夏、校庭でクマゼミの鳴き声に触れました。東日本には生息していなかったセミです。生態系が変わってきました。
都内で生活する子どもたちの日常には、土に触れる機会があまりありません。子どもたちには、図工の時間に土を素材にした活動を設定するようにしています。そのひとつが、土の粘土です。土粘土の魅力は、何といっても素材の感触、可塑性です。手掛けるほどに生まれる形、変化する土の性質などを感じながら、つくりつくりかえていくことができます。
土はこの地球の大地。土も人間も同じ自然であり、生かされている命です。子どもたちと自然の声に傾聴し、自然から学びたいと思っています。
おもいでをかたちに
この作品は2年生の「おもいでをかたちに」(日本文教出版 図画工作1・2下 p.38-39)の授業でつくられたものです。生活の中で心に残っていること、形にしたい思い出を粘土で表す題材です。
500グラムの土粘土(陶土)を一人ずつ手渡しました。2年生の手のひらには、ずっしりとくる重みです。最初に焼成することを伝えました。袋から出した土と、すでに素焼きしたものをへらで叩いて音を比べて聴かせると「ペタペタン」「コンコンコン」と音に共鳴してくれます。土塊から手指でひねり出しながら形をつくっていくことを伝えました。
「すてきな 水ぞくかん」
Kさんはまず土をおよそ俵のような楕円の塊に整えました。その端から草のような形をひねり出します。そして紙ろくろ(粘土板の上に厚紙をのせたもの)の上にのせ、一回転して見てから草の横にカメをつくったので、私は「ゆらゆらしている感じ?」と尋ねると、「ワカメです」と教えてくれました。Kさんはもう自分の表したいことがはっきりとしているようなので、見守ることにしました。
ワカメの下をツゲ櫛でひっかくと感じが出てきました。ワカメの形を指先で整えようとして粘土が薄くなり、ちぎれてしまいました。でもKさんは自分の納得のいく形になるまで何度もつくりなおしています。また紙ろくろ[i]を回して反対側に「自分」を立ち上げました。「カメとワカメを見ているところ?」と聞くとKさんは、「ちがう!海の中でカメやワカメと遊んでいるところ」と話してくれました。
さらにKさんは、「わたしは、こんなイメージでつくろう、とさいしょにきめてつくりだすことがおおい。ねん土にさわると、なんだろうこのかんしょく。おすとすぐへこむ。ひっぱるとどんどんのびるしちぎれる。どうしたらいいだろう。あーでもない、どうしようかなーとおもいついたことをどんどんやってみながらかんがえた」と活動を振り返っています。
かつて沖縄の水族館に行った時のことを表そうと、土と対話し、形を変えながら想像を広げたKさんの土の再生です。
完成した作品を見ながら「まわりに絵の具で色をぬりたいな」と言うKさんのつくりだす新しい世界がこれからも楽しみです。
[i] 紙ろくろとは、粘土板の上に置いた厚紙のことです。滑りやすいので、粘土板を回すよりも簡単に作品の向きを変えることができます。また、作品の題名を思い付いたときに書くこともでき、声掛けの際の参考にもなります。完成した後も、粘土板ごと置いておかなくてもよいので便利です。
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阿部 宏行 (火曜日, 01 9月 2020 15:12)
すてきな実践ですね。
子どもの思いがたくさん詰まっています。子どもの活動のプロセスが伝わってきます。
その横で、微笑む先生の姿まで想像できます。
図工のみかた編集部 (木曜日, 03 9月 2020 16:44)
阿部宏行先生
コメントありがとうございます!
本当に、一つの作品には思いがたくさん詰まっているんだなと感じました。我々もその思いが届くようにしていかないといけないなぁと思います。
粘土の手応えや行きつ戻りつを、Kさん自身も自覚しながら表現していたところもすごいですよね。ただ何かをつくっているだけではなく、まさに「意味や価値をつくりだしている」んだなぁと感じました。
奥村高明 (木曜日, 03 9月 2020 22:26)
「紙ろくろ」という手立てが、子供が様々な角度から自分の作品を見つめ直すという学習調整につながって…「ゆらゆらしている感じ?」「カメとワカメを見ているところ?」と話しかけることで「こんなイメージでつくろう」という自分らしさがより強くなって…2年生の子供が、きちんと新しい〈私ー作品〉をつくる…素敵ですね。
図工のみかた編集部 (土曜日, 05 9月 2020 13:09)
奥村高明先生
コメントありがとうございます。
ちょっとしただけとポイントとなる手立てと、声掛けが大切なんですね。
Kさんのコメントを見ると、本当に「新しい〈私ー作品〉」をつくっているんだなということが分かりますね。それに寄り添うのが先生の大切なお仕事なんだろうなぁと感じます。
ぜひまたコメントお願いいたします!
hana (月曜日, 07 9月 2020 20:52)
500グラムの粘土を2年生の小さな手が何かを創ろうと一生懸命に動いている姿が目に浮かびました。一人一人に絶えず目を配り、良いタイミングでの声かけが、その子の創作意欲をさらに上向きにしているように思います。水族館での楽しい思い出が自分の形となって残すことができて良かったですね。
太田優子 (月曜日, 07 9月 2020 22:15)
今年度の情勢も踏まえた、自然の素材を生かした活動、とても勉強になりました。「紙ろくろ」も工夫ひとつで、様々な見方や便利なものになると知り、実戦してみたいです。
とても勉強になりました。ありがとうございます!
図工のみかた編集部 (火曜日, 08 9月 2020 07:45)
hanaさん
コメントありがとうございます。
小さな手で引っ張ったりちぎったり丸めたりして、手全体や指先を使いながらつくっていったんでしょうね。にこにこしていたのか、真剣な表情だったのか。どれぐらいの目線だったのか、いろいろな様子が目に浮かびますよね。
カメとワカメと遊んでいるKさんの表情が、すべてを語ってくれている気もしますね。
引き続きよろしくお願いいたします!
図工のみかた編集部 (火曜日, 08 9月 2020 07:51)
太田優子さん
コメントありがとうございます。
土粘土は触り心地もよいですし、ぜひ子どもたちにも触ってほしい材料ですよね。
私も、「紙ろくろ」を敷くことで児童の活動もガラッと変わるんだな、と気づかされました。確かに板の粘土板思いですしね…。少しの工夫が大事なのだと勉強になります。
是非、活用してください。ご実践された授業での作品などもお知らせいただけたら嬉しいです!
S.yukari (日曜日, 13 9月 2020 16:52)
粘土は「つくる、つくりかえる」が抵抗なくでき、さらに土のしっとりペタっとした感覚が指や手のひらに気持ちよく、私も幼い頃大好きな遊びの1つでした。作りたいものが決まっていたKさんの気持ちに寄り添いながら、海の世界を一緒に楽しむ陽子先生と子どもたちの空間が素敵です。
思わず私も土粘土で、ペタペタ、コロコロ久しぶりにやってみたい!と創作意欲が湧いてきました。
sayaka.y (木曜日, 17 9月 2020 20:10)
子供たちは粘土が大好きですよね。イメージすることに苦手意識をもっていても、手で触っていくうちにひらめいたり、形を変えてゆく中で思いがけず素敵な発見があったりと、笑顔が生まれる素材だなと感じています。
Kさんへ
粘土で作りながら、「こうしたらこうなる!」という発見をたくさんしたんですね。ワカメとカメと遊んでいるKさんは、海の中で一緒にゆらゆらゆれているように見えて、楽しそうです。「すてきな水ぞくかん」という名前も、いいなと思いました。
図工のみかた編集部 (金曜日, 18 9月 2020)
S.yukari さん
コメントありがとうございます。
土の粘土の触り心地は、油粘土や紙粘土とも違ってとても気持ちいですよね。私は子どもの頃に土の粘土に触った記憶があまりないので、いつもうらやましいと思ってみております。
Kさんだけでなく、きっと同じように思いを巡らせながら表現したんだろうな、と思うと本当に素敵な空間ですね。
是非S.yukari さんも粘土で楽しんでください!
図工のみかた編集部 (金曜日, 18 9月 2020 08:35)
sayaka.y さん
コメントありがとうございます。
子どもたちは本当に粘土が好きですよね。
おっしゃっていただいたように、触っていくうちにひらめくとか、思いがけない出会いがある、というのは粘土のよさの一つだと思います!
Kさんへのメッセージもありがとうございます。鈴木先生からお伝えしていただきますね。