3年生の「土でかく」(日本文教出版 図画工作3・4上 p.48-49)を基に、鑑賞の視点に力を入れて「大地のおくりもの」として行いました。土を集め、絵の具をつくったり、表したりしながら、自然の形や色、感触などの面白さを感じ取るものです。
「大地のおくりもの」
6月、「ほんのひとにぎりの土を採取し、天日に干して持ってきてください」と呼びかけました。
校区が都内の住宅街ということもあり、採取できる土が見つからず、子どもたちから「土はどこにあるの?」という問いが生まれます。土はアスファルトの下にあるのです。3ヶ月をかけ、祖父母や親せきの協力も得て何とか全員が採取できました。
採取した砂をふるいにかける体験では「さらさら」「ふかふか」「あったかい」と歓声を上げながら、画用紙を丸めたロートでガラス瓶に詰めていきました。その後3年生全員の70個の瓶を、並べたり入れ替えたりする中で「みんなの土、いろんな色がある」「この色はどこの土?」「これを絵の具にするの?」と土への関心が高まりました。
「大地の土の形や色などには、どんなよさやおもしろさがあるだろう」
「大地のおくりもの」で通底して問いかけたのは、「自然の土の形や色などには、どんなよさや面白さがあるだろう」ということでした。
採取する、ふるう、比べて見る、絵の具にして表してみるなどのプロセスを通して、進んで働きかけ、働きかけられながら自然の土の色の多彩さや不思議さ、刻々と変化する感触を感じ取ってほしいと考えました。
土との対話
Rさんは、まず自分の土(家の庭の土)をとり、水糊を加えると「わぁ、のりが水玉になった。色が変わるんだ。べとべとだ。もっとのりを入れよう」とつぶやいた後、土で絵の具をつくること、和紙にぬったりかいたりしていくことに2時間、没入していきました。
無言で大地の土と対話するRさんを私は見守りました。
かいた和紙をすべて並べると、Rさんは静かに語り始めました。
「土の中の風景。ほらないとわからない。見えないものを想像している(①)」
「これは砂時計。時間がたちずっと昔の人やまわりの世界を見ている感じ(②)」
「いろんな畑。校庭の畑とまだ行ったことがない畑(③)」
「土の色や触り心地が変わる様子。のりを多くすると土の色が明るくなる(④)」
「円の真ん中の濃いところは地球の中心。周りが私たちのいるところ。外側が宇宙(⑤)」
「友だちや人間みたいに、混ざり合おうと、土だけのとくべつなやり方で、未来に土を残している(⑥)」
「植物の成長。種は土の中でこんなふうに形を変えて生命が誕生する(⑦)」
Rさんは一気にこのように話してくれました。
Rさんの見方や感じ方に、ただ驚くばかりです。「“土だけのとくべつなやり方で”というところをもう少しお話聞かせて」と尋ねると、「雨、太陽、ざっそう、葉っぱ、虫、人とかが土といっしょになると、いい土になって未来に続くでしょう」と話してくれました。
そして、「あ、そうだ。地球と宇宙をもう少しかこう」と言ってかき加えました。
「大地はなぜ命を生み出すのだろう」
Rさんは最後に、『大地はなぜ命を生み出すのだろう』というとても深い問いをたてました。
総合的な学習の時間で、栄養教諭と山形の枝豆農家の方とつなげた土の授業でもあり、Rさんの感じ取った土の面白さは、形や色、感触を通して、命の循環をも問うことになりました。
心に地球を感じて、子どもたちが問い続けていくことのできる授業を編み続けたい。Rさんから学びました。
註)
本校はユネスコスクールで、ESD(持続可能な開発のための教育)を推進する学校です。認定されて11年間携わって模索してきた私にとってのESDとは、対話、他者とのかかわり、センス・オブ・ワンダー、試行錯誤、答えのない問いを問い続ける、変容を促す学び、がキーワードです。
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太田優子 (月曜日, 02 11月 2020 23:28)
土から想像を広げるR.さん、ポンポンと思いつく楽しそうな様子がとても伝わってきました。
児童の自由な見方は感じ方は、大人の想像もつかないものばかりで、驚きを隠せません。
自然の中の素材から、全身を使って感じて、そして思ったことを表す、とても素敵な題材です。
また、図工から命の大切さまでつながっていく姿、図工だけでは留まらない学びの奥深さを実感しました。
内野務 (水曜日, 04 11月 2020 07:39)
「大地のおくりもの』の意図は、その題材名のごとく、「おくりもの」をイメージする内面描写です。
子どもたちは、その土が生まれた、まさに「土地」と、今の自分のあるところを結びます。
遙かな土地からの長い線。ごく近い校庭からの短い線。人の心が託された温かい線。様々な線が子どもたちに集まるのです。子どもの頭にはそんな自然なネットワークが映るはずです。
アートはそんな見えないものに、子どもたちを誘うものです。
そこに描かれた絵には、きっとそんな寄せられた土と思いが重なるキャンバスです。
Okumura Takaaki (木曜日, 05 11月 2020 09:35)
内野先生同感です。
その子の「見方や考え方」がネットワークのように広がり、
さらに「主張」や「問い」まで創り出す図工ってすごいですよね。
「教科をしているけど、教科を越えている」
そんな概念を先生がもっているかどうかで、子供の見えや作品の見えが変わるのだろうな
それが先生として大事なのだろうな、そう思いました。
図工のみかた編集部 (金曜日, 13 11月 2020 10:34)
太田優子様
いつもコメントありがとうございます!
いろいろな色の土を見て味わったからこそ、触ってみたいという気持ちになり、Rさんの中に新たな問いや気持ちを生み出したんでしょうね。
図工は「形や色など」を扱う教科ですが、それがゴールではなく、世界に関わっていくためのスタートなんだと私も気付かされました。
学びって本当に奥が深いですね!!
引き続きよろしくお願いいたします。
図工のみかた編集部 (金曜日, 13 11月 2020 10:42)
内野務先生
コメントありがとうございます。
>子どもの頭にはそんな自然なネットワークが映るはずです。
そうですね!それが新たな「問い」となって、より深く世界と対峙することになるのでしょうか。
>アートはそんな見えないものに、子どもたちを誘うものです。
土に触れ、土でかきながらだからこそ、Rさんの中にこの「問い」が生まれたんですね。
>そこに描かれた絵には、きっとそんな寄せられた土と思いが重なるキャンバスです。
まさに作品だけからでは読み取ることができないことだったのではないかと思います。
図工の授業がどのようなものであれば豊かなものになるのか、私も深く考えさせられました。
引き続きよろしくお願いいたします!
図工のみかた編集部 (金曜日, 13 11月 2020 10:47)
Okumura Takaaki先生
コメントありがとうございます。
>その子の「見方や考え方」がネットワークのように広がり、
教科の学びの中で、ある点に収斂していくようなイメージをもってしまいそうになりますがそうではなく、ネットワークのように広がっていくイメージをもつことが大事ですね…。
>さらに「主張」や「問い」まで創り出す図工ってすごいですよね。
>「教科をしているけど、教科を越えている」
>そんな概念を先生がもっているかどうかで、子供の見えや作品の見えが変わるのだろうな
>それが先生として大事なのだろうな、そう思いました。
教科書をつくっている我々も、「教科をしているけど、教科を越えている」ような提案ができるようにしないといけないなぁと思いました。
引き続きよろしくお願いいたします。
志田隆宏 (火曜日, 17 11月 2020 18:06)
身近にあるのに、日々の生活の中であまり意識しない「土」という題材に対してRさんが真剣に向き合い、自分自身や周りの環境へと意識を向けていく姿が言葉として表れていることに驚きました。
今回の「土」との対話に限らず、「他者との関わり」に関しても、見方や考え方など、その子なりの感性や言葉で表現したものを大切にキャッチして、支援や指導をしていきたいなと感じました。
図工のみかた編集部 (金曜日, 20 11月 2020 10:01)
志田隆宏様
コメントありがとうございます。
仰る通り「土」は身近であるが故、もしくは都会の子であれば身近でないが故、普段は意識しないものかもしれませんね。
そうしたものに目を向ける機会、そこから広がる思いやイメージ、問い、というものをより豊かにするのが図画工作の学習なのかな、と感じました。
その子なりの表現を大切に受け止めること、とても大事ですよね。我々も意識していきたいと思います!
引き続きよろしくお願いいたします。
sayaka.y (金曜日, 20 11月 2020 18:43)
子供たちが今自分の手にある土から、その土がある場所やゆくえ、在り方等を、旅をするように楽しく想像している姿が目に浮かぶようでした。土で描くまでの工程も気になります。ふるいにかけたり、様々な種類の土を比べた時、子供たちはどのように感じたのかを聞いてみたいと思いました。
図工のみかた編集部 (土曜日, 21 11月 2020 16:18)
sayaka.y様
いつもコメントありがとうございます。
そうですね。瞬間瞬間で子どもたちがどのように感じたのかとても気になりますね。今回の授業は総合的な学習との関連や、栄養教諭の先生との連携などもあったとのことですので、そのときどきに、いろいろなことを感じたんじゃないかと思いますよね。
子どもたちがさらに土を巡る旅を続けてくれるとうれしいですね。
今後ともよろしくお願いいたします。