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第十一回 スーパームーンとむらさきの花

スーパームーンとむらさきの花
スーパームーンとむらさきの花

4年生の「言葉をもたないいのちのコトバを聴く」という題材で表した作品です。花を見て、感じ、想像を広げて、絵に表すものです。

 

卒業式と入学式を飾った花、サイネリア。もともと赤道より南で咲いていた多年草ですが、日本では鑑賞用として、一年草に改良されました。来年は咲かない花が、枯れてしまう前に、毎年、絵のモチーフにすることにしています。そのことを子どもたちに話し、「いのちあるこの花からどんなコトバが聴こえるだろう」と子どもたちに問いかけました。

 

少し難しそうな題材名に思われるかもしれませんが、表しながら声なきものに想像をたなびかせることを大切にしてほしいと考えています。

 

 

 

自分色の画面をつくる

 

 最初に花から感じるイメージで、自分色の画面をつくってから表すことを提案しました。Rさんはまず青色の絵の具をチューブから画用紙に直接絞り出し、手に水をつけてその上に振りかけ、ローラーでのばしました(①)。全面には色を塗りませんでした。画面をつくりながら、「部屋の窓から花が外を見ているところを表そうかな」と思ったようです。

 

 その次に、窓の半分ほどを黒でぬり(②)、窓の白く残した部分に、サイネリアの紫色の花を一筆一筆じっくりとかいていきます。少しずつ緑色の色合いを変えたり、水の量を加減したりしながらサイネリアを一気にかきました(③)。

 

 

 感じるままに

 

翌週、作品を目の前にして、Rさんは「もう完成かな……」と小さくつぶやきました。いつも自分の感じるままに、事を起こしていくRさんの姿に繰り返し立ち会ってきたので、静かに遠くから見守りました。Rさんは、しばらく作品を見た後、筆をとり、空をさらに黒でぬり重ねました。その夜空に、金色の大きな満月が浮かび上がります。まん丸の形になるよう、何度も金色をぬり重ね、形を整えていくと、満月はどんどん大きくなりました。そのまわりに、ひとつひとつ置く場所を吟味しながら、金の点が散りばめられました。

 

 

Rさんは、最後に、夜空にも花と茎を少しだけ伸ばして完成させました。この瞬間が私はいとおしくてなりませんでした。

 

  

「スーパームーンとむらさきの花」

 

活動が始まるときに、「花のコトバ」は書かなくても、タイトルだけでもよいし、書いてもよい。耳や心を澄ますようにして表していこう、と緩やかに投げかけてありました。

Rさんはこの作品に「スーパームーンとむらさきの花」というタイトルをつけました。

以下、Rさんのコメントです。

 

 

何回も何回も金色を重ねてかいたら、きれいなスーパームーンになりました。星もたくさんかきました。

むらさきの花は、月を見ている。今日はスーパームーンだ。きれいだな。

月は、むらさきの花を見ている。きれいだな。

 

スーパームーンとむらさきの花 (四つ切 水彩絵の具) 4年生 S.R.さん
スーパームーンとむらさきの花 (四つ切 水彩絵の具) 4年生 S.R.さん

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コメント: 12
  • #1

    大谷結子 (土曜日, 01 5月 2021 18:00)

    花と月は遠くにいるお互いを見ながらきれいだなと想っている。
    なんて静かで美しい情景なのでしょう。
    Rさんの心の中にそのような感性が育まれていることに、静かに感動しました。

  • #2

    阿部 宏行 (日曜日, 02 5月 2021 13:45)

    スーパームーン。なんて素敵な情景なのでしょう。
    子どもの思考の流れが見えてきますね。
    子どもの思いに寄り添う先生のスーパームーンのような笑顔も浮かびます。

  • #3

    はな (月曜日, 03 5月 2021 18:13)

    「最後に、夜空にも花と茎を少しだけ伸ばして完成させました。」別々に存在していた月と花が対話を始めた瞬間に感じました。きれいな紫色を太陽の光で輝かせている花と、月の光に照らされて咲いている花は同じでしょうか、違うのでしょうか。月に聞いてみたいです。忙しく過ごす私たち大人もたまには、ぼーっと月を眺め、対話をしたいと思います。

  • #4

    あや (月曜日, 03 5月 2021 21:23)

    きれいだな きれいだな
    お互いに響き合うことが 
    こんなにも幸せな気持ちになれることを
    まずは私が 日々の生活の中で忘れずに生きていきたい
    子どもたちに それを図工を通して伝えられる
    そんな授業いつか いつかできるように

  • #5

    神谷真帆 (火曜日, 04 5月 2021 17:05)

    言葉を持たない命のコトバを聞く…子供たちが花と向き合って、どんな言葉が聞こえてくるのか、どんな言葉を聞きたいのか、一生懸命想像する様子が目に浮かび、微笑ましくなりました。
    初めはみんな、「どんな言葉が聞こえるか」自分と花との対話から始まるのかなと思います。Rさんの作品はそこから月と花の対話に繋がっているのがとても素敵で、月の存在はサイネリアをとても綺麗だと思ったRさん自身でもあるのかなと思いました。
    子供たちがひとつの花にたくさんの物語を感じられるような、素敵な図工に感動しました。

  • #6

    ヒロキ (水曜日, 05 5月 2021 15:33)

    「・・・この瞬間が私はいとおしくてなりませんでした。」こんな陽子先生の眼差しが素敵だといつも思います。子どもは表現に夢中になっているときは、周囲に目が向かないかもしれません。でもその姿を見てもらえている安心感はきっと伝わっているはずです。だからこんなに素敵な作品が生まれるのですよね。「感じ」を優しい言葉にしていただけて、作品や子どもの見方が広がります。ありがとうございます。

  • #7

    図工のみかた編集部 (火曜日, 01 6月 2021 08:31)

    大谷結子様

    コメントありがとうございます。

    本当に、静かで美しい情景ですよね。
    わたしもいつまでも見ていたくなる絵です ^^)

    今後ともよろしくお願いいたします。

  • #8

    図工のみかた編集部 (火曜日, 01 6月 2021 08:33)

    阿部 宏行先生

    コメントありがとうございます。
    自分が子どもの頃は「スーパームーン」という言葉も知りませんでした。
    子どもの取り巻く世界によって生まれる表現も変わるんでしょうね。
    先生もその大きな要素の一つなんだろうと思います。

    引き続きよろしくお願いいたします。


  • #9

    図工のみかた編集部 (火曜日, 01 6月 2021 08:36)

    はなさん

    コメントありがとうございます。

    >別々に存在していた月と花が対話を始めた瞬間に感じました。
    Rさんのイメージがぐっと結び付いた瞬間なんでしょうね。
    同時に月と花が対話を始める…。
    とても素敵瞬間ですね。

    >忙しく過ごす私たち大人もたまには、ぼーっと月を眺め、対話をしたいと思います。
    本当にそうですね。梅雨時ですが時間を見つけて空を見上げたいと思います。

    引き続きよろしくお願いいたします。

  • #10

    図工のみかた編集部 (火曜日, 01 6月 2021 08:40)

    あやさん

    >お互いに響き合うことが 
    >こんなにも幸せな気持ちになれることを
    >まずは私が 日々の生活の中で忘れずに生きていきたい

    すてきなお言葉ありがとうございます。
    本当におっしゃる通りですね。
    他者と響き合うには、まずは他者を認識しないといけない。
    Rさんは普段からすてきな人やものと響き合っているのかもしれませんね。

    おっしゃるように、私たち自身もそのことを忘れないようにしないといけないですね。

    引き続きよろしくお願いいたします。

  • #11

    図工のみかた編集部 (火曜日, 01 6月 2021 08:45)

    神谷真帆様

    >月と花の対話に繋がっているのがとても素敵で、月の存在はサイネリアをとても綺麗だと思ったR>さん自身でもあるのかなと思いました。

    Rさんは月でもあり、サイネリアでもあるのかもしれませんね。
    確かにサイネリアの言葉に呼応するような「対話」になっているのがとても魅力的です。

    >子供たちがひとつの花にたくさんの物語を感じられるような、素敵な図工に感動しました。
    「コトバ」というと国語の授業でのイメージが付きまといますが、こうしてえがくことを通して思いを寄せるからこそ聞こえてくる、図工だからこそ生まれる「コトバ」があるんですね。

    引き続きよろしくお願いいたします。

  • #12

    図工のみかた編集部 (火曜日, 01 6月 2021 08:51)

    ヒロキ様

    コメントありがとうございます。

    >子どもは表現に夢中になっているときは、周囲に目が向かないかもしれません。でもその姿を見てもらえている安心感はきっと伝わっているはずです。

    そうですね!自分のしていることを認めてもらえる、という安心感はとても大切ですね。だからこそ繊細な表現や、それを言葉にすることができるんですね。
    きっと鈴木先生自身も子どもたちの表現を信頼していて安心感をもっているんでしょうね。

    ぜひいろいろな人にもご紹介いただけたら嬉しいです。

    引き続きよろしくお願いいたします。