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第十九回 みちの花

みちの花
みちの花

この作品は、2年生の題材「お花紙と絵の具と」で表した作品です。

お花紙を並べたり重ねたりして思い付いたことを、絵の具で絵に表す活動です。

 

 

お花紙と絵の具と、、、

 

 お花紙を並べた形、重ねた色の変化、感触などを楽しむ中から、表したいことを見つけてほしいと考えました。子どもが思ってもみなかった感覚と出会い、豊かに発想を広げてほしいと考えたからです。お花紙を操作しながら、自分の「いいな」「面白いな」を感じ取る時間を大切にしました。

 

 図工室の机に並べた18色の京花紙の上には、小さな積み木がのっています。側を歩くとふわりと舞い上がるほど薄くて軽い紙だからです。

 子どもたちはやさしく1枚ずつ、すきな色を選び、白い段ボールの上に並べて見る、重ねて見る、そっとやぶいて置くなど生まれてくる形や色を楽しみながらいろいろためしていきます。

 いいな、面白いなと思ったら液体のりで上からポンポンとスタンプを押すように紙を貼ったり、絵の具でかいたり、またお花紙を重ねたりしていきます。

 


 

 

 「ねえ、みてみて!」

 

 Kさんは細長い段ボールを選びました。最初に大好きな薄紫のお花紙を選び、そのまま置いたりやぶいて重ねたりしています。

 次に白、黄緑、オレンジ、茶、赤などを置いた後、お花紙で生まれた全体の形を確かめるように、周りを黄色の絵の具でぬりました。

 手を止め、考えてはまた手を動かす、一つひとつの行為はとてもゆっくりです。

 

 その後、Kさんはしばらくの間手を止めました。段ボールを縦にしたり横にしたり、黒板に立てかけて離れて作品を見ています。

 私はKさんを見守りました。

 

 Kさんは「どうしようかな」とつぶやき、お花紙の濃い紫を細くやぶいて貼りました。そして作品を縦にして見た時に「花にしよう」と思い付いたのようです。

 表したいことを思い付いてから、Kさんは斜め前の席のSさんに「ねえ、みてみて!」と作品を見せています。

 Sさんとは「ここの形、いいね」と感じたこと、自分の表したいことを伝え合ったりして、盛んに交流しています。

 

 Sさんに「いいね」と言われたKさんは、再び静かに自分の画面に没頭していきます。

 黒いお花紙を少しだけ折って貼ると、緑の絵の具で紫と黒のお花紙の上からぐいぐいと力強い曲線を一気にかいていき、「完成!」を自分で決めました。

 

 

「みち(未知)の花」

 

Kさんは「みちの花」というタイトルを付け、こう話してくれました。

 

すきな色を選んだり、自由においたり、うごかしたりしていくのは楽しい。

自由になれると、見たことのない、新しい世界をつくりだせる。

図工の時間は自分が自由になれる時間。

だから、図工の時間は大事だ。

 


材料・用具

児童:液体のり、タオル

教師:京花紙(18色)、共用の絵の具(18色を容器に入れてとろとろに溶いておく)、段ボール(異なるサイズ、形に切っておき、選べるようにしておく)、筆

 

《みちの花》(30×90㎝)2生生 Kさん
《みちの花》(30×90㎝)2生生 Kさん

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コメント: 4
  • #1

    はな (土曜日, 12 2月 2022 21:56)

    作品に添えられた言葉が2年生とは思えないですね。Kさんにとって、というよりこの学校の子どもたちは、皆、図工の時間をKさんと同じように思っているのではないでしょうか。自分を解放し、未知の自分と出会い、友だちとも交流する。Sさんも共感してくれたことで、満たされた気持ちになったことでしょう。図工は、自分が自分であること、自分でいられること、自己肯定感が育つ教科でもあるのですね。

  • #2

    Yukari.S (日曜日, 13 2月 2022 10:40)

    ゆっくり、安心して思いのままに表現できる場所があること。すごく幸せで、それが学校の中にあることが本当に大切なことだと気付かされます。わたしには見えない世界、聴こえない声や音が広がっているように思います。わたしはどうしても青と水色、黄色とクリーム色、など近いと感じる色を隣り合わせて表現することが多くなってしまうのですが、Kさんの色や自分との対話によって生まれたこの作品に「未知」の世界を感じました。

  • #3

    図工のみかた編集部 (日曜日, 13 2月 2022 13:36)

    はなさん

    コメントありがとうございます。
    子どもたちは、大人と同じように言葉を使うわけではないですが、言葉がつたないからといって考えていることもつたないというわけじゃないんだな、と私も改めて感じました。
    おっしゃるように授業の空間があって、Kさんのような言葉が出てくるんでしょうね。

    >自分が自分であること、自分でいられること、自己肯定感が育つ教科
    この言葉を拝見して学習指導要領解説の「かけがえのない自分を見いだしたりつくりだしたりすること」という言葉を思い出しました。
    まさにこのことを忘れずに、図工の授業をつくっていかないといけないですね。

    引き続きよろしくお願いいたします。

  • #4

    図工のみかた編集部 (日曜日, 13 2月 2022 13:40)

    Yukari.Sさん

    コメントありがとうございます。

    >それが学校の中にあることが本当に大切なこと
    ほんとうにそうですね。小学校教育という、すべての子どもが受ける教育の中に、こうした時間がしっかりと位置づいていることの意味を、我々大人は自覚しないといけないと思いました。

    >わたしには見えない世界、聴こえない声や音が広がっている
    KさんにはKさんの見ている世界、YukariさんにはYukariさんの見ている世界があって、それが隣り合ったり重なったりして存在しているのが、きっと素敵な世界ですよね。作品は、そんな、自分とは違う人の世界を少し覗かせてもらう窓のようなものかもしれませんね。

    引き続きよろしくお願いいたします。