この作品は、5年生の「心のもよう」(日本文教出版 図画工作5・6上 P.14-15)の授業の中で表したものです。絵の具で思いのままにかいた形や色から、いろいろな気持ちを見つけて絵に表すものです。
「おもむくままに表す」こと
子どもたちには低学年の頃から、色を選んだりつくったりする時は、「自分のすき、これがいい」を大事にしてきました。5年生となり、水彩絵の具を使い始めて3年目です。「心のもよう」では、心のおもむくまま、身体のおもむくままに表すことを楽しみながら、生まれてくる形や色で自分の気持ちや感情を表すことを提案しました。
とりわけ「色」は人の感情と深くつながっていると思っています。自分の心や身体のおもむくままに表しながら生まれてくる色は、おのずと心の在りようを伝えてくるのではないでしょうか。だから、心や身体をほどき、自分の身に委ねながら表すことを大切にしたいと思っています。
経験や記憶とつながる
最初にFさんは、たっぷりと水をふくませた太い刷毛に、赤や青をつけてすっと画用紙に伸ばしました。パレットで色と色を完全に混ぜ切っていません。画面の上で自然に色がにじんだり、濃淡ができたり、または、余白が生まれたりすることを心地よいと感じているのでしょうか。赤と青が混ざっていく響き合いを感じながら、それぞれの色のよさを表しています。
しばらくすると、Fさんは丸筆を使い、小さな紙に木々、空、水辺など自然を感じるものをかいています。筆先をとてものびやかに使いながら色を置いています。Fさんが2時間ほどかけて表したものはどれも、水を何度も調整しながらつくった、透き通るような形でした。私は、この形や色にどのような気持ちを重ねているのか尋ねると、「自然の中にいる、自分のおだやかな気持ち」とFさんは教えてくれました。そういえば、Fさんは祖父母が暮らす信州によく行き、小さな紙に絵の具でスケッチした山や木々などの作品を見せてくれることがよくありました。
「夏の思いで」
Fさんは、前の週にかいた紙を台紙の上で横にしたり、置き変えたりしてしばらくの間、動かして見ています。そして、白い台紙に、太い刷毛で黄色や緑、茶色などをうっすらと塗りました。ここでもにじませたりかすれさせたりして画用紙の白を生かしています。その上に前の週にかいた紙のいくつかを、小さな紙を切って形を変え、形や色のどこを生かそうか考えて貼っていきました。
私はその紙の重なりに、どこまでも天高い澄んだ空気のような心地よさ感じました。Fさんの「心のもよう」は、信州の美しい自然の空気や風景とつながっていたのでした。
「夏の思いで」というタイトルを付けて、以下のように言葉を添えてくれました。
小さな紙に絵の具で思いのままにかき始めた時、
絵の具のもようが夕焼けの空や海、砂、木のかんじがして、夏をあらわそうと思いました。
わたしは夏が大すきです。いろいろな色をかんじるからです。
かいている時、夏の出来事や自然のようすを想像しました。
紙を切るときも、一番夏に合うところを選びました。
花火は打ち上げられておしまいではありません。
時の流れの中で、新しいものが生まれ続ける「種」をイメージしました。
自然の「美しさ」「不思議」についてたくさん考えて絵を仕上げると、
また絵をかきたくなるのです。
※本作品は初等教育資料9月号の表紙でも取り上げられています(編集部)
材料・用具
児童:水彩絵の具
教師:画用紙(いろいろなサイズに切っておく)、基底材となる画用紙、刷毛等
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ふくざき あや (日曜日, 11 9月 2022 15:20)
「自然の中にいる、自分のおだやかな気持ち」
という心のありかたに気づけたFさん
鈴木先生の図工の授業で
「自分のすき、これがいい」
という経験を積み重ねてきたからこそ
穏やかな気持ちで 静かに
図工の音に包まれながら
作品に取り組んでいる姿が浮かんできました
「心のもよう」の題材について私は
心の喜怒哀楽などの気持ちをストレートに
表わさなければならない題材だと
思い込んでいたところがありました
心のおもむくまま
身体のおもむくままに表すことを楽しみながら
生まれてくる形や色で自分の気持ちや感情を表すことで
「夏のおもいで」を表したこの絵に
しばらく浸っていたいなと思います
図工のみかた編集部 (土曜日, 01 10月 2022 09:12)
ふくざきあさ様
コメントありがとうございます。返信が遅くなり申し訳ございません。
>「自分のすき、これがいい」
>という経験を積み重ねてきたからこそ
おっしゃると売りですね。図工はその場その場の思い付きのように思われることもありますが、経験の積み重ねが、こうした表現に繋がっていくんだろうと思います。
>心の喜怒哀楽などの気持ちをストレートに
>表わさなければならない題材だと
>思い込んでいたところがありました
題材のねらいや活動内容はは先生方が子どもたちの実態や、年間(やもっと長いスパンでの)指導計画の中でお考えになることですので、喜怒哀楽などの気持ちを表す、ということになっていることが必ずしも間違いではないと思います。
とはいえ今回のお話から「心のもよう」の可能性の広がりを感じていただけたのであれば、とてもうれしいです。
いずれにしましても、子どもたちがえがいた形や色、もよう、質感といったものから、子どもたち自身が広げたイメージは、大切にしてあげたいですね。
引き続きよろしくお願いいたします!