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第三十四回 大地の絵の具

写真は3年生の題材、「大地のおくりもの」で表した作品です。

身近な土を採取し、触ったり、絵の具にしてかいたり見たりして、土のよさや面白さを感じ取る鑑賞の活動です。

 


 

 

「土はどこにあるの」

 

3年生の子どもたちに、身近にある土をほんのひとにぎり採取し、手で触れたり、見比べたり、絵の具にしてかいて見たりしながら、土のよさや面白さを味わうことを提案しました。

 

間もなく子どもたちから、「土がなかなか見つからない。」と声が上がりました。本校は、住宅街にありながら、ほとんどがアスファルト舗装されています。校庭は人工芝で、自分たちの身近では簡単に土が取れないことに気付きました。夏休みをかけて、少し遠出した先で採取してくる子どもも多くいました。

 

この題材は、食育(山形県の枝豆農家)と国語科(大豆の成長)と関連させてESD[i]の学びとして、数年前から編み続けています。大地の土はいのちを育み、いのちをつないでいるかけがえのないものです。自然を慈しみ、目には見えないものにも想像をたなびかせていってほしいという思いから、子どもたちと共に問い続けています。

 

 

大地の土には、どんなよさや面白さ、不思議さがあるだろう

 

 Nさんは、区内の祖母の家の近くにある公園からシャベルでひとにぎりの土を採取してきました。

 最初に、天日で乾かした土を、友だちと一緒にふるいにかけました。粗目の味噌漉し網と、細かい網の茶こし網を使いました。土に触れながら子どもたちは、「けむりが出てきた!」「わあ、さらさらになる。」「ごろごろした土を石でつぶそう。」「もっと細かくしよう。」と歓声をあげています。私は、こんなに嬉々としている子どもたちの姿を見て、土に関わることの経験が少なくなっていると感じました。

 

 ふるいにかけた土をガラス瓶につめて、採取した場所と自分の名前をラベルにして貼りました。3年生全員の60個のガラス瓶が並ぶと、Nさんはひとつひとつの土を見比べて、「みんなの土が並んだら、きれい。」「色が少しずつちがう。」と、ラベルを見ながら、ひとつひとつに見入っていきました。

 

 次の週は、これらの土を絵の具にして、ぬったりかいたりして土を味わっていきます。さんはまず自分の土を陶器の皿に取り、のりを混ぜました。「のりを混ぜたら色が変わる!」少しずつのりを足して色を調整しています。「土が絵の具になるんだ!」「思いのままにかいた」という作品中央のこころみから始まり、筆先を使ってかいてみたら、それが自分にとっていい形だったのでしょう。その形を繰り返しています。和紙の上に広がったさんの土の色や形、肌理(きめ)は、とても暖かく、しなやかな感じに満ちていて、私は惹きつけられました。

 

 

 昨年は、山形県の枝豆農家さんとの交流はかないませんでした。植え付けた豆が豪雨災害により流されてしまったのです。配信された動画で「これだけしか、とれねかったから」と打ちひしがれる声の農家さん。「でも、うちはこれだけでもとれたからありがてえと思わなきゃ。」と、大豆をいとおしむように繰り返しなぜる姿を見て、子どもたちは「これだけって?こんなにあっても?」と問いかけました。

 

 

「大地の絵の具」   

 

 Nさんは、土で表した作品に「大地の絵の具」というタイトルを付けました。活動を終えてさんがこのように話してくれました。

 

大地はいろんなものに変わります。

大地で生まれた枝豆は、甘くておいしいです。

大地は絵の具にもなります。

さわった感じも色も、どんどん変わります。

大地の絵の具で、「自分がきれい」とかんじた土をのこしました。

わたしたちの大地をのこしたいです。


材料・用具

児童:ひとにぎりの大地の土

教師:洗濯糊(PVA)、堅ろう性のある厚手の和紙(小さめに切っておく)

ふるいにかける網(味噌こし網、茶こし網等)、ガラス瓶、木製スプーン、ロート、菊皿、筆など

 



[i] ESD:持続可能な開発のための教育。SDGs17の目標の中の「4 質の高い教育をみんなに」にあたる。本校は2011年にユネスコスクールに認定された。ユネスコスクールはESDを推進していく学校である。

ESDについては、日本文教出版株式会社ホームページで連載中の「学び!とESD」も併せてご覧ください。

https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/esd/

 

 

 

《大地の絵の具》(台紙60×45cm) 3年生 Nさん
《大地の絵の具》(台紙60×45cm) 3年生 Nさん