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第三十七回 がけの下のアジサイ

写真は3年生が教科書の「わたしの6月の絵」(日本文教出版 図画工作3・4上 p.18-19)で表した作品です。

学校などで見つけた6月の様子から感じたことを絵に表すものです。


 

 

「わたしのミニ・スケッチブック」をもって  

 

季節折々のよさや面白さを全身で感じ取ってほしいと思っています。

 

子どもたちには、手づくりのミニ・スケッチブックをもって6月をさがしに行き、それらをもとに絵に表すことを提案しました。

手の平サイズの紙、数枚をホッチキスで止めただけの簡単なスケッチブックです。子どもたちはこのミニ・スケッチブックが大好きで、背表紙のマスキングテープも色を組み合わせたり、ずらして重ねたりとこだわりをもってつくります。小さなサイズなので、ささっと絵にかきとめたり、言葉を添えたりできる気楽さが、活動への期待を膨らませてくれます。

 

 

見たこと、感じたこと、想像したこと

  

 Uさんは、中庭に出ると、まず表紙にガクアジサイをかきました。そして主事さんが大切に育てている大きなユリ、マーガレットなどをかくと、「五本木の森」へ行きました。本校の敷地の一角にある、武蔵野の雑木林の名残である、小さな森です。

 Uさんは森の中でも、6月を感じるものを見つけては、立ち止まってかいていきます。ドクダミの花、ヒマラヤスギの上から聴こえてくるカラスの声、雲の隙間からのぞく青空、土砂降りの雨、町並みなどを一気にかいていきました。

 

Uさんのイメージはどこから

 次の週は、見つけた6月を感じる様子を水彩絵の具で絵に表していきます。

 

 Uさんは、画面の下方に大きなアジサイをかき始めました。スケッチではガクアジサイ(①)をかいていますが、これは西洋アジサイです。息を凝らすように、筆先に集中をしてかいています。その後、右端にがけのようなものをさっとかき、その上に、小さな赤い花をかきました。そしてまた画面にぐっと集中していくUさんは、絵の具で何度も何度も空の部分に色を重ね、筆づかいによって変化する絵肌を楽しむかのように表していき、最後に地面をかいて、作品を完成させました。

 

 放課後、Uさんの絵にじっくりと見入りました。この絵にはUさんのどのような思いがあるのだろうか。Uさんのイメージはどのようにしてわいてきたのだろうか。ミニ・スケッチブックにヒントがあるかもしれないと思い、Uさんのスケッチを見返しました。しかし、スケッチしたものをそのまま表現に生かしてはいませんでした。ただ、後半は、想像を広げてかいている絵もあり、その中で一番最後のスケッチ(⑨)は、Uさんの表したかったことにつながったのかな、と私は感じました。

 Uさんが6月をさがし、スケッチしながら想像を広げ、絵の具で表し、体全体で感じた様々な経験や記憶がつながって生まれた「わたしの6月の絵」なのだと思いました。

 

▼Uさんのミニ・スケッチブックから(21×15㎝)

①中庭のガクアジサイ(左) ②ユリ(中) ③マーガレット(右)
①中庭のガクアジサイ(左) ②ユリ(中) ③マーガレット(右)
④ドクダミの花(左) ⑤雲間の隙間の青空(中) ⑥どしゃぶりの雨(右)
④ドクダミの花(左) ⑤雲間の隙間の青空(中) ⑥どしゃぶりの雨(右)
⑦森でずっと鳴くカラス(左) ⑧帰り道の夕日(中) ⑨夜、月が海にうつる(右)
⑦森でずっと鳴くカラス(左) ⑧帰り道の夕日(中) ⑨夜、月が海にうつる(右)

 

「がけの下のアジサイ」

Uさんの作品のタイトルは「がけの下のアジサイ」です。

 以下はUさんのコメントです。

 

 まず、アジサイを大きくかきたいと思いました。

「がけ」は、私が「気になる」もののひとつで、「ピンチの時のイメージ」もあります。

がけの下にあるアジサイは、少しさびしい感じがしたので、がけの上に赤い花をかきました。

わたしは絵の具をたっぷり使うのがすきです。

どんどん絵の具を重ねたら、空は「夜」のイメージになりました。

 

 


材料・用具

児童:筆記用具、クーピーや色鉛筆、マスキングテープ、水彩絵の具

教師:水彩色鉛筆(24色)、画用紙(ミニ・スケッチブック:A4の半分のサイズ 基底材:26×38㎝)。ホッチキス、マスキングテープ等

《がけの下のアジサイ》(26×38㎝) 3生生 Uさん 
《がけの下のアジサイ》(26×38㎝) 3生生 Uさん