学校を舞台としたアートプロジェクト
「図工のあるまち」では、学校の外側にある図画工作あるいは図工のようなものについていろいろな角度からアプローチしてきた。その一方で、学校もまたアートの場として大いなる可能性を秘めている。その中には、長野県千曲市立戸倉上山田中学校で展開されていた「とがびアートプロジェクト」(2004年~2013年)や横浜国立大学附属鎌倉小学校で開催された「鎌倉なんとかナーレ」(2009年~2012年)のように、先生の力によって内側から学校を開いていくような実践も見られる。
筆者も、10年程前から茨城県水戸市にある公立小学校において、《放課後の学校クラブ》というアートプロジェクトに取り組んできた。とは言え、学校の中の人としてではなく、あくまでも外側の人として関わり続けている。これまでに、のべ40名を超える児童が「部員」として参加し、現在も8名の部員と一緒に活動を行っている。この連載でも、時折プロジェクトの現場からレポートしていきたい。
放課後の学校クラブの発足
まずは、《放課後の学校クラブ》が始まった当時のことをふりかえる。そもそも、このプロジェクトはアーティストの北澤潤さんの発案による。北澤さんは、流れ過ぎる日常に「もうひとつの日常」を立ち上げるアートプロジェクトを各地で展開してきた。例えば、埼玉県北本市で行われた《リビングルーム》では、団地の空き店舗に住民から提供された家具等を配置し、物々交換をしながらもうひとつの居間がつくりだされた[i]。こうした方法論を学校に適用し、「もうひとつの学校」をつくることを目指して始まったのが《放課後の学校クラブ》である。
「クラブ」と言っても、学校の教育課程内で行われる「クラブ活動」ではない。学校の外側にある時間(=放課後)に出現するもうひとつの学校を「放課後の学校」と名付け、それを探究するアートプロジェクトとして構想された。そこでは、子どもたちにとっての「いつもの学校」をふりかえりながら、それぞれの興味があることややりたいことを出発点としつつ、一人ひとりが主役となる場として「学校」が再構築されていく。
そのため、このプロジェクトは実際の学校で行われることに意味がある。ただし、このようなコンセプトを受け入れてくれる学校に巡り合うのは容易なことではない。そのような中、「コミュニティスクール」を掲げる現在の実施校に受け皿となってもらったのは2011年のこと。校内に設けられたコミュニティルームや近所の文庫を活動場所として、地域の大人や保護者の協力を得ながら運営されてきた。それから10年間、部員が入れ替わりながらも活動は受け継がれている。
コロナ禍での制限と活動再開に向けて
ちょうど1年前には「お花見」をテーマにした学校を準備していたのだが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う一斉休校の影響で中止。これまで活動場所としていたコミュニティルームも、感染対策のために普通教室になってしまった。結果的に、2020年度はほとんど活動を実施することができないまま、また3月を迎えて今日にいたる。その間も、子どもたちは学校で集まっていろいろと計画を練っていたようだ。クリスマスには素敵なプレゼントも届いた。
そのような子どもたちの熱意に応えるためにも、再開に向けて少しずつ動き始めた。3月7日には、久しぶりに集まってこの春に小学校を卒業する部員を送る会が開かれた。卒業証書やアルバムも部員の手づくり。みんなで絵しりとりをして盛り上がった。送るだけではなく、迎える準備もということで、メンバー募集のチラシも作成。一人ひとりの思いが見えて感慨深い。「もっとふえればもっと楽しい‼」という名コピーも誕生した。1年以上ぶりの新入部員。新たな出会いが楽しみである。
気まぐれ読書案内
茂木一司(代表編集)『とがびアートプロジェクト―中学生が学校を美術館に変えた』東信堂、2019年
戸倉上山田中学校で10年間にわたって取り組まれてきたアートプロジェクト「とがび」の記録集。公立中学校を舞台にした実践について、教員や研究者、アーティストなどがそれぞれの立場から考察しています。美術教育の題材づくりや学校と社会との関わり方など、多くの学びが得られます。学校教育が潜在的に有している創造性について改めて考えることができる一冊です。
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