広報大作戦
昨年末から準備を進めてきた「妖界」もいよいよ本番が近づいてきた。前回の反省を踏まえ、今回はゆとりをもってチラシも完成。4月24日の活動日には、高学年の部員を中心に、チラシを配りにまちに繰り出した。
まずはおなじみの駄菓子屋さんを訪問。子どもたちがたくさん来店するため、広報効果も抜群だ。日程や活動内容などについて説明し、チラシの掲示をお願いする。無事に一軒目を終え、次はどこに行こうかと話し合う。
商店街を歩きながら、「ここなら貼ってくれるかも」と突撃。小学校と地域との距離が近いこともあり、どの店舗も快く協力してくれた。その一方で、「あのお店は子どもだけで入ると怒られる」といった情報も共有されているようだ。その実態はさておき、子どもたちの目線から捉えたまちの地図が垣間見えて面白い。
1時間以上かけてたっぷりと広報活動を展開した。果たして本番はどうなることやら。
赤い鳥居でお出迎え
約半年ぶりの発表会は、大型連休最終日の5月8日に開催。始業は午後2時だが、部員は午前11時に集まって会場づくりを進めていく。今年の3月に小学校を卒業した部員は、さっそく中学校の美術部のメンバーを誘ってきてくれた。さらに、大学生3名も新入部員として加わった。
子ども部員はそれぞれ持ち場についてセッティング。体調不良のため欠席した部員もいたが、チームごとに大人の助けも借りながら柔軟に対応していた。スマートフォンで動画を撮影しながらレポートする様子に感服。黒板には元ネタになった絵を貼り、授業内容と紐づけていく。
廊下では赤い鳥居の製作が着々と。前回の「月と夢の世界」の発表会で教室の中央に鎮座していた「バク」を解体し、ペットボトルで骨組みを組み立てていく。それを赤い布テープでぐるぐる巻きにしながら固定し、ポスターに描かれたイメージを再現する。
保護者チームと大学生、そして時々子どもたちの協働のもと、「あやかしの世界」への入り口が立ち上がった。最後に中学生が描いたイラストを貼って完成だ。
大盛況の幕開け
始業の時間を迎え、「誰か来てくれるかな」という不安も束の間。広報の成果もあってか、始まると同時にたくさんの入学希望者が殺到。予想以上のにぎわいに戸惑う子どもたち。
当初はしっかりと時間割を組んでいたものの、それだけでは収まらず、早々と予定を変更し、あけられるところから授業を始めることになった。ここでも特に「予定通りやりなさい」と指導することもせず、見守り役に徹する。
本来、1時間目を担当する予定だった「おばけをたおすゲーム」には長い行列ができていた。特製の割り箸鉄砲で的を狙うおなじみの内容だが、小学生には大人気。「景品が足りないぞ」ということで、大学生が駆り出されてうしろで量産。後で話を聞けば、倒れにくく固定するなど、その時々に工夫していたようだ。
そのとなりでは、6年生部員による「妖怪研究部」が展開されていた。ワークシートを使って、オリジナルの「妖怪」を考える授業だ。あたかも「妖怪採集帖」のように、妖怪の名前、絵、属性(水、火、木、土、その他から選ぶ)、説明を書く欄が設けられている。USBがなかなか入らない時にあらわれる「USBがえし」など、たくさんの新種の妖怪が発見された。
(妖怪採集帖については図工のあるまち第十四回をご覧ください!)
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「妖界」はどこにあるのか?
ここで改めて、今回のテーマについて思いを巡らせてみたい。そもそも《放課後の学校クラブ》は、「いつもの学校」に対して「もうひとつの学校」をつくるという意味において、それ自体が異世界を生み出す装置として機能している。
こうした「フィクション」を共有した上で、子どもたちはそれぞれの興味関心に応じた「授業」を自由につくりあげていく。たとえそれを「授業」として認識していなかったとしても、本番には「生徒」として訪れる他者に伝えなければならない。
とは言え、その「伝え方」は必ずしもわれわれが想像する仕方と同じとは限らない。現場でのやりとりを近くで見ていると、「今の説明で伝わっているのかな」と不安になることもある。しかし、「生徒」として参加している子どもたちは、案外何の疑問も持たずにその世界に入り込んでいることが多い。
2年生の部員が担当していた「おばけのおてがみきょうしつ」でもそのようなコミュニケーションが見られた。これは、「おばけ」に聞きたいことなどを付箋に書いて手渡すと返事がもらえるというものであった。雑念にまみれた筆者などは「何か書いて」と言われると、つい「何を書いてほしいんだろうか」と考えてしまうが、よくよく考えれば相手は「おばけ」だ。
境界としての赤い鳥居をくぐった先に現れるのは、現実の世界での常識がしばし無効化してしまうファンタジーの世界。子どもたちが導き出した「妖界」というキーワードは、あるいは「放課後の学校」そのものなのかもしれない。
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