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第三八回 放課後の学校クラブ 第16回 修学旅行復命書

8月7日から9日にかけて、「放課後の学校クラブ」の6年生部員5名が岩手県にある「金ケ崎芸術大学校」まで修学旅行に赴いた。例年にない酷暑ではあったが、事故や怪我もなく無事に全行程を終えることができた。ここでは、引率者の視点から3日間の出来事を時系列に沿って記し、出張報告に代える。

 

 

8月7日

9時。水戸駅の改札前に集合。


9時19分。常磐線特急ひたち(仙台行)に乗車。時折、車窓から海を眺めながら、電車に揺られること約3時間。福島を通過して宮城へ。

1 車窓を眺める(常磐線にて)
1 車窓を眺める(常磐線にて)

12時29分。予定通りに仙台駅に到着。ここで群馬から移動してきた大学生4名と合流。七夕祭りが開催されていたため、途中下車して散策するも、あまりの人混みに子どもたちは七夕飾りに興味を示さず。

 

2 仙台の七夕飾り
2 仙台の七夕飾り

13時39分。仙台発東北本線(小牛田行)に乗車。七夕祭りの影響か、とても混雑していた。


14時23分。小牛田着。ホームで乗り換えを待つ。とても暑い。

 

 

3 乗換の小牛田駅にて
3 乗換の小牛田駅にて

14時45分。東北本線(一ノ関行)に乗車。宮城から岩手へ。

15時31分。一ノ関着。ここで3回目の乗り換え。東北本線(盛岡行)に乗車。子どもたちによれば、車窓の風景が「茨城に似ている」らしい。


16時13分。無事に今回の目的地である金ケ崎駅に到着。少し涼しくなってきた。ここから徒歩で金ケ崎芸術大学校へ向かう。

 

4 金ケ崎芸術大学校へ向かう一行
4 金ケ崎芸術大学校へ向かう一行

16時40分。大学校に到着。「生活者工房」の庄司知生さんがお出迎え。子どもたちと大学生はこれまでに何度か顔を合わせたこともあるが、改めて自己紹介。その後は、長旅の疲れを癒すためにしばし休憩。その間も、庄司さんの取り組んでいる漆芸に興味を示し、作業を体験する部員もいた。

 

5 金ケ崎芸術大学校へ到着
5 金ケ崎芸術大学校へ到着
6 庄司さんに漆芸を学ぶ
6 庄司さんに漆芸を学ぶ

18時。夕食は徒歩2分の場所にある和洋食道Ecruへ。金ケ崎芸術大学校と同様に侍住宅の環境を生かした飲食店である。今回は、修学旅行のための特別メニューということで、なんと「流しそうめん」をご用意いただいた。竹を割ってつくった本格的なレールに子どものみならず大人も盛り上がる。難易度MAXということでブルーベリーを流すアトラクションも。「子どもたちにいい思い出をつくってほしい」という心意気に感謝である。

 

7 流しそうめん
7 流しそうめん

21時。自由な時間。大学校にあるワカツキ模型店でプラモデルを買って組み立てたり、ボードゲームを楽しんだり。少し夜更かしをし過ぎた。 

8 夜は自由に
8 夜は自由に

23時30分。就寝。蒸し暑くて寝苦しい夜だ。

 

 

8月8日

7時30分。ぬくぬく起床。布団のたたみ方や押入れの使い方を教える。


8時30分。朝のお散歩に出発。いくぶん涼しいが、やはり例年と比べると気温の下がり方が弱い。重要伝統的建造物群保存地区を歩きながら、この地域の特徴やしきたりについて話す。途中、金ヶ崎神社に立ち寄ってお参りをした。参拝の仕方を教える。金ケ崎駅を経由して線路の向こう側へ。町のパン屋さんで朝食を購入。スーパーで飲み物やスイカも仕入れた。スイカを抱えて大学校へ戻る。

 

9 朝のお散歩
9 朝のお散歩
10 神社でお参り
10 神社でお参り

10時30分。今回の修学旅行の最大の目的は、いつもと違う環境で「放課後の学校クラブ」の活動を行うことにあった。そのために「もうひとつの学校をつくろう」と題したワークショップを企画。地元の小学生の参加も期待していたが、結果的にはおなじみのメンバーでの実施となった。まず、事前に「金ケ崎芸術大学校」という名前を聞いて想像していた場所と現地に訪れて気付いたことについて尋ねてみる。当初は「勉強道具しかない」「コンクリートでできた建物」「学校のような机とイスがある」といったイメージが浮かんでいたようだったが、実際には「学校にはないような面白い素材がある」「木が多い」「畳と長机」といった違いが発見された。続いて、この場所で「放課後の学校」を開くとしたらどんな学校をつくることができるか問いかけてみる。「古い建物だからお化け屋敷ができるかも」と言いつつ、この家にいそうな付喪神をつくりだした部員もいた。いつもなら、それもいいねと流してしまうところだが、今日はもう少し突っ込んで「そもそも、もうひとつの学校って何だろう?」と深掘りする。考え疲れてそのまま横になる部員たち。すると、いつもと違う目線で世界が見えてきたようだ。天井が床になったり、壁を歩いたり……いつでも寝転がることができる環境から「視点が変わる学校」といったアイディアも示された。

11 もうひとつの学校をつくろう
11 もうひとつの学校をつくろう

 12時30分。ちょっとハードな活動も一区切り。気分を変えて向かいの公園でスイカ割り。

 

12 スイカ割り
12 スイカ割り

14時30分。版画でポスターをつくる。今年は「金ケ崎芸術大学校」と「放課後の学校クラブ」をつなぐキーワードとして「ちょっとフシギなもうひとつの学校」をテーマに設定した。午後は地元の小学生も参加し、7名での活動となった。水戸駅からご同行いただいていたグラフィックデザイナーの石井一十三さんの声掛けのもと、ポスターの構想を練っていく。が、今夏の酷暑は尋常ではない。例年であれば扇風機で十分に乗り越えられるはずが、体力と集中力を悉く奪っていく湿気と熱気のため、一時中断。

13 いろいろな素材で版をつくる①
13 いろいろな素材で版をつくる①

15時15分。水分と塩分と糖分を摂取してヒットポイントを回復してから活動再開。先ほどの続きで「ちょっとフシギ」というキーワードからいろいろなイメージが浮かび上がってきた。家の中を虫たちがわがもの顔で歩いていたり、海があったり、砂漠があったり……視点を変えれば、地球の上に学校があるのではなく、もうひとつの学校の中に地球があってもいいかもしれない。様々なモチーフが出揃ってきたら、版づくりに取り掛かる。版画家の城山萌々さんから版をつくるポイントを学びながら、手分けして取り組んだ。いろいろな素材の紙に加えて、糸や針金、植物なども使って試行錯誤。仕上がった版はそれ自体でも見応え十分。途中、『岩手日報』の新聞記者からの取材も受けていた。

 

14 いろいろな素材で版をつくる②
14 いろいろな素材で版をつくる②

16時50分。男子と女子の間で衝突が起こる。大学生が見守りながら別室で話し合い。


17時30分。それぞれのつくった版を紹介して1日目の活動が終わる。石井さんより大学生チームに宿題が課された。

15 仕上がった版の一例(歩く虫)
15 仕上がった版の一例(歩く虫)

18時。子どもたちと30分ほど話し合い。

19時10分。町内で農業を営む千葉農園からミニトマトの差し入れをいただく。多くの方々の協力のもとに「小学生ウィーク」が成立していることを改めて実感する。

 20時。当初の計画ではみんなで夕食をつくることも考えていたが、明日に備えて体力を残しておくために地元のスーパーで調達。先ほどのミニトマトもさっそくみんなでいただいた。とてもおいしい。


21時。公園で花火を楽しんだ。夏休みらしい夜だ。

 

 

16 花火の時間
16 花火の時間

21時30分。襖の取り付け方を教える。大きな部屋を二つに区切って布団を敷く。

22時。疲れもたまってきたため、早めに就寝。大学生チームはもう片方の部屋で夜遅くまで紙版画づくりに取り組んでいた。

 

 


月9日


8時。少し遅めの起床。ぐっすり眠れたようだ。今日はお散歩には行かず、ワークショップが始まる時間まで各々の活動を続ける。追加の版をつくる様子も見られた。

9時50分。「放課後の学校クラブ」の卒業生が大学のある秋田から茨城に帰省する道中に金ケ崎に立ち寄ってくれた。一緒に水戸まで戻る段取りである。


10時。前日に引き続き、版画でポスターづくり。午前中なので少しは活動しやすい。まずは、周囲が散らかっていたため、掃除をするところから始まる。続いて、集中力が途切れないうちに、それぞれの製作した版を1枚の紙面にまとめていった。夜のうちに大学生がベースとなる紙版をつくっていたため、そこに多種多様なモチーフを貼り付けていく。ポスターとして見た時の伝わりやすさも検討しながら、石井さんと子どもたちとの間でやり取りを重ねる。

 

17 版のレイアウトを検討
17 版のレイアウトを検討

10時45分。ある程度レイアウトも決まってきたため、部員は別室でお手紙プロジェクトに着手。石井さんのデザインによる絵日記型のハガキに修学旅行の思い出をしたためる。


11時15分。刷りの時間が始まる。今回は単色刷りではあるものの、混色してオリジナルの色をつくることにした。果たして「金ケ崎芸術大学校」はどのような色で表現できるだろう。「木が多いから緑や茶色がいい」「古い家の柱のようなこげ茶色があうのでは」といった意見が出たため、茶色をベースに進めていく方針が定まった。まずは黄色い絵の具をたくさん出して、そこに赤や青を加えながら色を調節していく。多色刷りのリトグラフを専門とする城山さんならではの色彩感覚で、子どもたちと対話しながら微妙な調色が繰り広げられていった。実際に紙に刷ると色の印象も変わるため、試し刷りもしながら色を決めていく。石井さんも含めてこれでいいねという色ができたら、次はいよいよ版に絵の具を乗せていく。ローラーの使い方を教えてもらいながら、協力して活動に取り組む。画面が大きく素材も異なるため、絵の具が乗りやすいところと乗りにくいところがある。その間、『胆江日日新聞』と『岩手日日』の記者から取材をうける。

18 色をつくる
18 色をつくる
19 ローラーで版に絵の具を乗せる
19 ローラーで版に絵の具を乗せる

12時10分。一度目の刷り。みんなで協力しながらバレンでゴシゴシ。改めて、版画は体力勝負である。おおよそ擦り終わった頃合いを見計らって、紙をめくっていく。色が濃く出過ぎている部分と薄い部分とでムラはあるものの、なかなかの仕上がり。版の段階ではバラバラに見えても、一枚の版画になると不思議な統一感が生まれるのはいつものことながら興味深い。一枚目の刷り上がりを見つつ、2枚目以降は大学生も協力しながら刷りを重ねていった。

 

20 1枚目の刷り上がり
20 1枚目の刷り上がり

12時30分。お手紙の時間の続き。

13時10分。地元の小学生の影響により、型抜きブームが到来。

14時20分。遅めの昼食。近所にある揚げ物屋さん「まるとみ食品」で、から揚げ30個、コロッケ5個、ハムチーズ5枚を注文。

15時10分。お世話になった大学校を離れる前にお掃除の時間。


15時35分。現地を出発し、徒歩で金ケ崎駅に向かう。道中でポストにお手紙を投函。おそらく、手紙が届くよりも子どもたちが水戸に戻る方が早いだろう。

 

21 金ケ崎駅に向かって帰路につく一行
21 金ケ崎駅に向かって帰路につく一行
22 ポストに投函
22 ポストに投函

16時01分。東北本線(一ノ関行)に乗車。

16時32分。一ノ関駅に到着。帰りは新幹線で仙台まで移動するため、乗り換え口へ。

16時49分。新幹線はやぶさ(東京行)に乗車。「小学生ウィーク」は後半も続くため、筆者の引率はここまで。道中の無事を祈りつつ、ホームで電車を見送った。

 

 21時30分。無事に水戸駅に到着したようだ。一安心。


 

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