家の中の図工室
今回も岩手県胆沢郡金ケ崎町からのレポート。江戸時代の町並みが残る重要伝統的建造物群保存地区(伝建群)の一画で、侍住宅を地域に開かれた学びの場として活用するプロジェクトが進行中。今年の7月から新たに始まった「ずこうの時間」では、その一室を「図工室(仮)」に改装することを目指している。2回目の活動日には、前回リストアップした物品を少しだけ用意して構想を練っていった。アルミの直尺、ドリルドライバー、丸のこ、ニッパー、デザインナイフなどなど。具体的な道具を前にするとイメージも膨らみやすい。
話し合いを進めていく中で、空間としての機能や使い勝手についても議論が深まっていった。現在「図工室(仮)」として整備を進めている部屋は、家の中でも裏側に位置しているため、木材加工など屋外での作業が想定される活動には適さない。これについては、敷地内にある別棟の倉庫を「木工室(仮)」として活用する新たなプランも提案された。屋内は工作や手芸など、家内制手工芸とでも呼ぶべき作業に適した空間へと特化させていくことに。
伝建群での暮らし
このように、金ケ崎芸術大学校の「ずこうの時間」では、家でできることを考えながら、それを実現するための環境をつくりあげていく。一連のプロセスは伝統的建造物を舞台にした創造的な暮らしを想像することにもつながる。例えば、大学校が拠点とする「旧菅原家侍住宅」には、かつてお茶の先生が居住されていた。近所の方にお話しを伺うと、お茶を習いに行った思い出話を耳にすることも多い。そのような経緯もあって、今も庭園には茶会に活ける四季折々の花が咲く。これもまた理想を求めてつくられた環境だ。
そもそも、この土地での暮らしにはどのような特徴があるのだろうか。もちろん、江戸時代に建てられた家に住んでいても、江戸の生活を送っているわけではない。とうの昔に道路はアスファルトに舗装され、茅葺の大屋根もトタンで覆われている。旧菅原家侍住宅も、建物の構造は創建当初のままだが、土間が台所になったり押入れをつくったり、時代とともに新たな生活様式を取り入れながら増築や改装がなされてきた。
季節とともにある生活
とは言え、まだエアコンは設置されていない。暑い夏に寒い冬、否応なく季節の変化を体感する。ちょうどこの時季、盛夏の候は生け垣の刈り取りシーズンにあたる。昨年の大学校では「生け垣の時間」と称してヒバ刈りを体験した。大きなハサミや電動バリカンを駆使して生け垣の表面をきれいに整えていく。工夫次第で自由に形をつくることができるらしい。伝建群をそぞろ歩けば塀の形をした生け垣も見つかる(細目家住宅)。これについては改めて「そぞろみ部」[1]でも訪れてみたい。
前回紹介した「藍の時間」も季節とともに変化する。6月にみんなで移植した藍の苗は今年の長梅雨のおかげでぐんぐんと成長し、9月の収穫を待つ。果たして江戸時代にこの地で藍が育てられていたのかは分からない(おそらくは育てていなかったのではないかと思われる)が、地元の染色愛好家の理想の暮らしを具現化した開校日である。次回は沈殿藍をつくる予定。図工室には藍甕も置いてみようか。妄想の図工室談義はまだまだ終わらない。
金ケ崎芸術大学校のサイトはこちら https://kanegasaki-artcollege.jp/
[1] まちをそぞろ歩きながら身の回りにあるものを造形的な視点から観察する部活動。『形forme』での連載を引き継いで、この記事でも時々活動状況を報告していく予定である。
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