大学校の芸術の秋
金ケ崎芸術大学校では、2019年より「城内農民芸術祭」というアートプロジェクトに取り組んでいる。宮沢賢治の「農民芸術」の理念を参照しつつ、生活そのものから芸術が立ち上がる場をつくることを目指すものだ。昨年は、9月から11月にかけて2か月間にわたり様々な企画を実施した。陶芸家のきむらとしろうじんじんさんを招いて庭先で「野点」をしたり、演出家の黒田瑞仁さんを招いて演劇目線から伝建群を眺めたりと、一軒の家を起点に芸術の波紋が広がっていく現場を体感した。
今年は感染症拡大の影響もあり、昨年のような規模ではなく、小さな秋祭りをイメージしての企画となった。裏の畑で栽培していた藍の種を摘み取る収穫祭をベースに、暮らしに密着したささやかなプロジェクトの集合体として組み立てていく。期間も10月31日から11月3日までに凝縮。そのぶん密度の濃い時間となった。今回から2回にわたり、祭り当日のにぎわいを顧みる。
お庭の時間
10月末から11月初旬は伝建群が紅葉で彩られるハイシーズン。10月28日を「庭の日」と定めて、その前後には普段は非公開の個人宅の素敵なお庭も公開される。この季節に便乗して、芸術大学校では「お庭の時間」と銘打った開校日を開催した。講師を務めるのはプラモデルづくりが得意な東北芸術工科大学の学生。ジオラマの技法を用いてオリジナルの庭をつくる開校日も今年で3回目を迎える。今回は農民芸術祭の開幕を告げるワークショップとなった。
粘土でつくったベースに絵の具で着色し、小石や砂、スポンジなどの素材を使って庭を仕上げていく。小学生から大人まで制作に没頭する参加者。時間に制限はないため納得のいくまで作品と向き合う。絵の具を混ぜて絶妙な土色をつくったり、水辺に石を並べて池を表現したり、海綿に着色して庭木にしたり、創意工夫を凝らした庭が続々と完成していった。最後は芸術大学校の誇る庭園を背景に写真を撮ってお持ち帰り。
植物の時間
お庭の時間が終わったらお散歩へ。村山修二郎さん[1]をゲストに迎えて「伝建群植物探訪」を開催した。村山さんは、草花を紙や壁に擦りつけて絵を描く「緑画(りょくが)」など、植物をテーマにした表現活動を行うアーティストである。当日は午前中からフィールドワークをされていたとのことで、近くで拾った木片に「草木塔」[2]と彫った一品を持ってのご登場。通常は石に刻まれる「草木塔」だが、村山さんは初めて訪れた土地で適当な木に刻むことが多いらしい。ちなみに、事前リサーチも含めてこの日が二度目の金ケ崎となる。
果たして、村山さんの目に「緑の要害」はどのように映るのだろうか。生け垣の形を一つとっても、厚みや仕上げ方などに家々の個性が垣間見える[3]。各家の庭園も多種多様。池を配したものや独特な形に刈り込まれたドウダンツツジなど、受け継がれてきた造形に直に触れることができた。「お庭の時間」の参加者のこだわりを思い出す。
侍屋敷大松沢家では、シロバナタンポポが植生するエリアを囲んで村山さんの「エゾタンポポプロジェクト」[4]についてお話を伺った。一通り探訪したら大学校に戻ってふりかえり。こうして農民芸術祭の一日目は暮れていった。(続く)
気まぐれ読書案内
市川寛也(監修)『金ケ崎芸術大学校 記録帖』金ケ崎芸術大学校、2020年
今回の読書案内は宣伝も兼ねてできたてほやほやの記録集をご紹介。宮沢賢治の「農民芸術」の理念に基づき、生活そのものを芸術として実践するための実験に取り組んできた大学校の少し不思議な1年を綴った1冊です。季節ごとに変化する風景や「城内農民芸術祭」の様子などが豊富な写真とともに掲載されています。金ケ崎芸術大学校などで現地販売するほか、通信販売も受付中。フルカラー、152頁で価格は1,000円(税込み)です。お求めは金ケ崎芸術大学校広報部Twitterアカウントまで。https://twitter.com/kanegasakiart
[1] 村山さんの活動については3331 Arts Chiyodaでの活動を参照。http://www.3331.jp/schedule/004034.htm
[2] 草木塔(そうもくとう)とは木や草などの植物への感謝の気持ちをあらわし、その生命を供養するための碑や塔のこと。山形県を中心に見られる。
[3] 伝建群の生け垣については本連載の第2回を参照。https://www.zukonomikata-nichibun.net/zukonoarumachi-kanegasaki02/
[4] 秋田県大館市で2009年より取り組まれているプロジェクト。大館市立長木小学校と連携しながら、エゾタンポポを採集、栽培し、タンポポ畑をつくってきた。
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