大学校の夏休み
金ケ崎芸術大学校では、2021年より夏休みの特別企画として「小学生ウィーク」に取り組んでいる。新型コロナウイルスの感染拡大の波はまだまだ収まる気配を見せないが、今年もその季節がやってきた。
普段は特に対象を限定していないものの、基本的には大人の参加が多い大学校。そのような中、夏休みの宿題を元ネタにした開校日をひらくことで、地元の小学生にも気軽に参加してもらうことを目指している。
アーティストの村山修二郎さんによる大きな紙に植物で絵をかくワークショップなどが行われ、大学校が束の間の小学校となった。この中でも、今回スポットを当てるのは「版画でポスターをつくろう」というプログラムである。
大学校の広報物も手掛けるグラフィックデザイナーの石井一十三さんと版画家の城山萌々さんのお二人が担当する贅沢な活動だ。8月12日と13日の二日間にわたって開催され、やる気に満ち溢れた4年生1名と5年生2名の計3名が参加した。
ポスターの構想を練る
昨年度に引き続き、今回も秋に開催される「城内農民芸術祭」のポスターを製作することが最終的な着地点となる。とは言え、実はこの段階ではまだ企画が固まっていなかった。そのため、「この家を舞台にした小さなお祭り」というふんわりとしたテーマから出発することに。
お座敷の机に模造紙を貼り付けて、それぞれの思う「お祭り」をかいていく。屋台で食べたたこ焼きやチョコバナナ、金魚すくいやヨーヨーつりなど、おなじみのモチーフが並ぶ。「もしかすると、みんなの知っているお祭りとは少し違うかもしれないよ」などと声を掛けつつ、農民芸術祭に参加する生活者工房のメンバーから漆芸や陶芸に使う素材や道具も見せてもらった。
ちょうどそんな話をしていた時、外はいきなりの土砂降り。この日の金ケ崎は、スコールのような雨が降ったりやんだりの不思議な天気。ついには雷鳴もとどろきだした。「そうだ、雷様も登場させよう」ということで新たなモチーフを追加。サポーターとして参加してくれた大学生も一緒になってイメージをひろげていく。
いろいろな素材で版をつくる
ある程度モチーフがそろってきたら、次は版の製作に取り掛かる。今回は、彫刻刀を使わなくても参加できるように、紙版画の技法をもとにつくっていく。これまでに学校で取り組んだことのある参加者もいれば、初めて見たという参加者も。
そこで、まずは城山さんが用意しておいた版を使って実演。切り貼りした紙の凹凸がそのまま版になるため、紙の厚みや表面のテクスチャーによって刷り上がりも変わる。紙だけでなく、糸など別の素材を使っても面白い。版ができたらローラーにインクをつけてのばしていく。白い紙はあっという間に真っ黒に。その上に別の紙を重ねてバレンでこする。紙をめくれば思わず歓声が上がった。
要領を得たところで早速つくりたくなってきた様子。今回は、全員で1つの版をつくるため、それぞれが分担して取り組んでいく。かわいらしいお化けのようなモチーフや月のウサギなど、思い思いに紙とはさみで版をつくる。4年生の参加者は「家の形を確認したい」と庭に出てじっくり建物を観察。トタンの屋根を表現するにはボール紙の質感がちょうどよさそう。玄関や家紋まで、細部もしっかり再現されていた。
版ができてきたら、石井さんと相談しつつホワイトボードに貼ったポスターサイズの紙の上に配置していく。伝わりやすさを考えながら行ったり来たり。こうすると足りない要素も見えてくる。「庭にある植物も使えるね」と葉っぱを取りにいく参加者も。「城内農民芸術祭」には村山修二郎さんによる「緑画」も展示を予定しているため、内容もぴったり。少し近い未来を想像しながら進めていく。
刷りとともにあらわれるイメージ
「おとまりの時間」をはさんで2日目。新たなモチーフも追加しながら、切り貼りを続ける。小学生と大学生、二人の講師の共同作業により、大きな版が完成した。ラムネを飲んで一呼吸おいてから、いよいよ刷りはじめ。
城山さんがインクを練って最初の一手。続いて小学生の参加者も挑戦する。はじめは少し緊張しているようにも見えたが、すぐに慣れてローラーをゴロゴロ。大きな紙全体にインクを乗せるのはなかなか大変だ。みんなで協力しながら進めていく。一通り完了したら、マスキングテープで見当をつけておいた机にやさしくセッティング。その上に和紙(今回は鳥の子紙を使用)を重ねて準備万端。
版画の経験もそれぞれなので、バレンの使い方を指南。版の中心から放射状にしっかりと、そして円をえがくように体重をかけてゴシゴシとこすっていく。面が広いため、全体をまんべんなく刷るのは難しい。まずは1枚目。果たしてみんなでつくった版はどのような絵になるのだろうか。
紙をめくってご対面。やはり、版画は刷り上がりの瞬間が盛り上がる。「山がいい感じだね」「屋根のなみなみがきれいにでているね」……版画を前にみんなで鑑賞。思った通りにいった部分や思いがけない表現などを共有し、2枚目以降に生かしていく。
版画の全貌はポスターが完成してからのお楽しみということで。筆者はと言えば、ポスターに負けないような「お祭り」にしなければと心に火が付き、一気に企画書を書き上げた。
今年度の事業案内
城内農民芸術祭2022
会期 2022年10月29日(土)~11月27日(日)
会場 金ケ崎芸術大学校
今年の「城内農民芸術祭」では、「みる」「つくる」「はなす」という3つの活動を通して、多様なものの見方や考え方を多様なままに受け入れるための土壌を耕していきます。いくつかのプログラムをご紹介します。
[みる]
・村山修二郎「緑の美術展」
植物をテーマにした作品づくりに取り組む村山修二郎さんによる展覧会を開催します。金ケ崎の侍住宅の空間とあわせてお楽しみください。
会場/開館時間
土合丁旧大沼家侍住宅 9時~17時 ※月・火曜日は休館(祝日の場合は翌日)
旧菅原家(旧狩野家)侍住宅 10時~16時 ※土日祝日のみ公開
・城山萌々「床の間版画展」
ワークショップの講師を務めた城山萌々さんによる作品を床の間にて展示します。ポスター原画とともに、生活の中の版画をお楽しみください。
会場/開館時間
旧菅原家(旧狩野家)侍住宅 10時~16時 ※土日祝日のみ公開
[つくる]
・ワカツキ模型「ジオラマでお庭づくり」
プラモデル製作で用いられるジオラマの技法を生かして、オリジナルのお庭をつくる毎年恒例のワークショップです。
日時 10月30日(日)11時~14時
会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅
参加費 500円(材料代込み)
担当 若月匠(ワカツキ模型店主)
・新しき盆栽村プロジェクト「これは盆栽ではない」
金ケ崎芸術大学校にて展開中の「新しき盆栽村」による参加型の公開制作。ワイヤーを素材に盆栽型の立体作品をつくります。
日時 11月26日(土)13時~16時
会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅
担当 北神将希(新しき盆栽村村長)
[はなす]
・哲学の時間「農民芸術シンポジウム」
ゲストを招いて、答えの出ない(あるいは答えのたくさんある)問いについて語り合います。今回のテーマは「ほんとうの幸い」です。
日時 10月29日(土)15時~18時
会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅
ゲスト 木村直弘(岩手大学人文社会科学部教授)
お問い合わせ先
金ケ崎芸術大学校
〒029-4503 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根表小路9-2
電話:080-7225-1926(担当:市川)
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