芸術と生きる
金ケ崎芸術大学校では、2019年より毎年秋に「城内農民芸術祭」という小さなアートプロジェクトを開催している(初回の様子はこちらとこちらから)。新型コロナウイルスの流行下でも、その時々にできる範囲で継続しながら、今年で4回目を迎えた。
以前に「図工のあるまち」でも取り上げたように、夏休みの「小学生ウィーク」ではこの小さなお祭りに向けたポスターの原画を版画で製作した(活動の様子はこちらから)。その後、無事にポスターも完成し、まちなかの様々な場所に掲示されている。
今回の城内農民芸術祭は、「金ケ崎に生きる、芸術と生きる。」をテーマにすることとした。もとより「農民芸術祭」という名称は、「農民」の芸術祭を指しているのではなく、「農民芸術」の理念を踏まえた祭りをコンセプトとしている。無論、「農民芸術」という言葉の意味も一様ではないが、宮沢賢治のテキストも参照しながら、生活そのものを芸術にすることにその本質を見据えた。
果たして、生活の中から立ち上がるような芸術祭は、どのような形で実現し得るのだろうか。ここでは2022年時点での経過報告を記していきたい。
展示空間としての侍住宅
今回のプロジェクトは、「みる」「つくる」「はなす」という3つの活動を軸に組み立てられている。この中でも「みる」活動については、2名のアーティストによる作品を侍住宅に展示した。
その一人である村山修二郎さんは、2020年から数えて今年で3回目の参加となる。昨年度に引き続き、植物を直接紙に擦り付けて描いた「緑画」を、土合丁・旧大沼家侍住宅の座敷に展示した。大きな顔のようにも見えてくるこの作品は、会場となった住宅の土間でつくられた。
そもそも、このエリアは近世の町割りを今に残していることから、重要伝統的建造物群保存地区(伝建群)に選定されている。「城内」という地名にも示されているように、かつては要害を中心に侍が居を構えていた。それらの侍住宅は、農家建築を基本としつつ、床の間を設えた座敷がある「半士半農」の構造を特徴とする。旧大沼家侍住宅は、当時の様子を復元した公開住宅となっており、広い土間がある。
一方で、金ケ崎芸術大学校が拠点とする旧菅原家(旧狩野家)侍住宅は、時代とともに改築されてきた履歴がそのままに残されている。生活様式の変化により土間は失われているが、部屋の配置などに当時の面影が見出される。これらの違いに着目するのも、家を鑑賞する視点としては面白い。
その旧菅原家(旧狩野家)侍住宅の座敷では、「小学生ウィーク」でも版画の講師を務めた城山萌々さんによる作品を展示した。ワークショップでは紙版画(凸版)の技法であったが、本来の専門はリトグラフである。今回は、「床の間版画展」と銘打って空間に合わせた新作《庭》を発表していただいた。抽象的なイメージは、鑑賞者に想像の山水画をも想起させる。
柱や梁などの直線的な枠組みと、襖や障子などの可動式の建具によって仕切られた日本建築にあって、固定された壁に囲まれた床の間は特別な展示空間であった。人の動きに伴い常に変化する家の中にあって「みる」ための機能に特化させることにより、芸術と生きることがその時々に意識化されていく。
開かれた家にて
作品展示が主になりがちないわゆる「芸術祭」に対して、「農民芸術祭」では他の様々なコミュニケーション回路の一つとして展示が位置づけられる。例えば、村山さんは旧菅原家(旧狩野家)侍住宅の庭園や裏の畑に、藁を綯った大小さまざまな輪(「草のわ」と呼ばれる)を配置していった。
これは、「作品」というよりも、来場者が自由な遊びを生み出すための仕掛けのようなものである。輪投げのように投げたり、体をくぐらせてみたり、いろいろな使い方が考えられる。ちょうど、期間中は伝建群の複数の住宅で庭園を特別公開していたこともあり、多くの来訪者で賑わっていた。家の中にいると、庭先から「ケンケンパッ」という子どもの声が聞こえてくることもある。地面に小さな円が並んでいると、ついつい遊びたくなってしまうようだ。
また、会期中には「つくる」活動として様々なワークショップも行われた。ねぶた作家の太田空良さんによる「わたしだけの灯り」は、ねぶたの技法をもとに、オリジナルの灯籠をつくるというものである。ワイヤーの骨組みに障子紙を貼り、蝋と染料を使って絵をかいていく。次は障子に大きな絵をかくプロジェクトへと展開していく予定だ。
そして、毎年恒例となったジオラマでお庭をつくるワークショップも開催。これを心待ちにしていたという小学生が朝一番にやってきて、次から次へと粘土でお庭をつくっていく。ハロウィン直前だったこともあり、季節感のあるアイテムも使って力作が仕上がった。
その後も創作意欲はとどまらず、お庭を散策。村山さんの「草のわ」で遊びつつ、「いいのがあった」とそのうちの一つを持ってきた。それにお庭で集めた植物や図工準備室にあったひもなどを組み合わせて「草のわ」をリースに仕立てていく。図らずも村山さんとのコラボレーションが実現した。
まちへの広がり
このように、「城内農民芸術祭」の期間中には、いつも以上に様々な人が出入りすることにより、本来であればプライベートな空間であるはずの家が、人々の行き交うパブリックな場所へと変化していく。あるいは、家(ウチ)と町(ソト)との境界が曖昧になっているとも言えるだろう。「芸術」という口実は、その曖昧さ(あるいは分からなさ)を引き受ける媒介としても機能し得る。
ここからさらに一歩、外側に広げていくために、今回の「城内農民芸術祭」では近隣住民に対するインタビューも実施した。村山さんと一緒にご近所さんの庭先に出向き、庭づくりへの思いや家の記憶などについてお話を伺った。突撃!とまではいかないものの、題して「となりのおにわ」である。
家々のお話の中でも、誰に見せるためでもなく、生活の中で受け継がれてきたお庭の在り方が浮き彫りにされていった。それらを殊更に「芸術」として喧伝するつもりはないが、このような日々の暮らしとの接点に、今日の「農民芸術」を見出せそうな予感がする。
インフォメーション
城内農民芸術祭2022
会期 2022年10月29日(土)~11月27日(日)
会場 金ケ崎芸術大学校
今年の「城内農民芸術祭」では、「みる」「つくる」「はなす」という3つの活動を通して、多様なものの見方や考え方を多様なままに受け入れるための土壌を耕していきます。後半のプログラムをお知らせします。
・生活者工房茶道部「金ケ崎秋期蒐集御披露目茶会」
金ケ崎の土でつくったお茶碗を使ってお茶会を楽しみます。皆さんのご自宅にあるお宝を持ち寄り、それを眺めながらお茶の時間を過ごしましょう。
日時 11月25日(金)10時~16時
会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅
亭主 佐藤清花(生活者工房茶道部)
参加費 500円
・どんどこ焼き芋まつり
美術家の矢口克信さんによる野外アートプロジェクト「風と俗」で用いた注連縄をお滝挙げしながら、焼き芋を頬張ります。
日時 11月26日(土)15時~17時
会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅の裏の畑
・新しき盆栽村プロジェクト「これは盆栽ではない」
金ケ崎芸術大学校にて展開中の「新しき盆栽村」による参加型の公開制作。ワイヤーを素材に盆栽型の立体作品をつくります。
日時 11月26日(土)13時~16時
会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅
担当 北神将希(新しき盆栽村村長)
・新春準備祭
版画で年賀状を刷ったり、縁起物の張り子をつくったり、鬼のようなお面をつくったり、新しい年に向けたワークショップを行います。
日時 11月27日(日)10時~15時
会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅
お問い合わせ先
金ケ崎芸術大学校
〒029-4503 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根表小路9-2
電話:080-7225-1926(担当:市川)
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