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第四四回 金ケ崎芸術大学校 第十八回 金ヶ崎要害鬼祭2024

 

 

いつもと違う冬景色

 

 金ケ崎芸術大学校では、節分の時期にあわせて「金ヶ崎要害鬼祭」を開催している。まちが雪に埋もれ、水道も凍る厳しい季節と向き合う文字通り鬼のような企画だったわけだが、今年は例年になく暖冬で、雪もほとんどない中での実施となった。

 

 3回目となる今回は、「美術実地調査演習」という授業の一環で群馬大学の学生も企画を担当。本当は、雪国の暮らしを全身で体験するために雪かき実習を組み込みたいところだったが……「鬼のすみかをつくろう」ということでかまくらをつくる計画も予定を変更。1月27日の準備祭では、わずかにのこる雪を方々からかき集めてようやく小さなかまくらが完成した。

かまくらに鬼を供える
かまくらに鬼を供える

 

 

金ケ崎ねぶたをつくろう

 

 振り返って昨年の鬼祭では、ねぶた作家の太田空良さんによって「大工と鬼六」の障子絵が描かれた(第三二回 金ケ崎芸術大学校 第十三回 金ヶ崎要害鬼祭2023)。障子の張替にあわせた企画だったものの、1年経った今でも大学校の風景の一部となっている。今年は、このプロジェクトに引き続き、実際にねぶたをつくることになった。

 

 実は、昨秋の「城内農民芸術祭2023」の期間中にキックオフミーティングを行い、金ケ崎ならではのねぶたのモチーフについて検討していた。地元の高校生も交えて話し合った結果、郷土芸能の「鬼剣舞」と町特産のアスパラガスを組み合わせたご当地ねぶたを製作することに決定。

 

 本来であれば骨組みからみんなで挑戦したいところだが、複雑な形をつくるにはかなりの技術が求められるため、今回は太田さんにお任せ。参加者は紙貼りや色付けを体験することに。とは言え、紙貼りも一筋縄ではいかない。針金で組まれた形にあわせて和紙(今回は障子紙を使用)を切り取り、ボンドで貼り付けていく。その際、平面の紙を立体に起こしていくため、どうしてもコツがいる。

 

 準備祭では、日中にかまくらをつくっていた大学生に加えて、翌日にワークショップを控える面々も協力しながら紙を貼り続ける。日付が変わった頃にわれわれは力尽きてしまったが、最後は太田さんが夜なべして仕上げた。

金ケ崎ねぶた完成間近
金ケ崎ねぶた完成間近

 

 

鬼尽くし!図工の時間 

 

 1月28日の本祭では、ねぶた製作と並行して、複数のプログラムが同時多発的に展開された。2019年から毎年恒例で開催している鬼のようなお面づくりは、筆者が世話人を務める東北妖怪文化研究センターによるワークショップ。不定形の張り子もどきを用意しておき、気に入った形のものに着彩しながらオリジナルのお面をつくっていく。

 午前10時。鬼祭の開始と同時にやってきた小学生は、一つひとつ形を吟味して着手。大き目の刷毛を使って全体を朱色で塗ったり、面相筆で表情をかき込んだり、絵の具を混ぜながら色をつくったり……文字通り図工の時間である。今回は、金色のアクリルポスターカラーも用意しておいたのだが、やはり特別な色なのか多くのお面でふんだんに使われていた。午後に訪れた5歳の男の子は、残り少ないお面の中から突起物がたくさんある不思議な形のものを選び、カラフルに彩った力作を見せてくれた。こうして固定化されつつある鬼のイメージが解きほぐされていく。


 今回の鬼祭には「ビッグスモール・センター」も初登場。「ハイレッド・センター」に感化された大学生を中心とする新しいプロジェクトだ。「センター分け目の戦い」と銘打って奥州(岩手)と上州(群馬)の鬼がセンターポジションを巡って競い合うらしい。岩手なら「かっぱ」「海」「わんこそば」、群馬なら「だるま」「山」「ねぎ」といった具合にそれぞれの地域を象徴する単語がかかれたカードを引いて、その組み合わせから新しい鬼を想像し、エントリーしていく。


 

 別の机では、おなじみワカツキ模型が「おにのおにわ」と題してジオラマづくりに取り組んでいる。毎月恒例の「折り紙同好会」も盛況。大人も子ども高校生も一緒になってこたつを囲み、鬼の折り紙を量産していた。書道家の佐竹松濤さんは、「新春書初め大会」を行いながらねぶたづくりもサポート。筆を通じた競演となった。

 

 

真冬のお祭り日和

 

 あたたかい冬の日ということもあり、多くの来場者に恵まれた今年の鬼祭。一時は大学校始まって以来の家がはじけるほどの密度だった。大小様々な靴であふれかえった玄関は、さながら親戚が一堂に会したお正月を彷彿とさせる。

 こたつに入って折り紙を楽しんだり、親子で協力しながらお面をつくったり、庭に出てかまくらに鬼を供えたり、筆と墨で鬼をかいたり、粘土に絵の具を塗りこんで手が真っ青になったり、お面をつけて写真を撮ったり、ジオラマをつくったり、ガチャガチャでおばけみくじを引いたり、駄菓子を買ったり、持ち込んだカレーを食べたり、ねぶたに蝋で花をかいたり、紙芝居を聞いたり、座れずに立ち話をしたり、取材を受けたり……そして、このような喧騒の中でも着々と色づいていく金ケ崎ねぶた。それぞれが思い思いの時間を過ごし、それらが交じり合う空間は、まさにお祭りだった。

 いつもより熱気に満ちていたのは暖冬のせいだけではないだろう。

 

靴で溢れた玄関
靴で溢れた玄関

鬼祭全景
鬼祭全景

 

お問い合わせ先

金ケ崎芸術大学校

〒029-4503 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根表小路9-2

電話:080-7225-1926(担当:市川)

 

メール:kanegasakiartcollege@gmail.com

 

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